【ショートショート】レッドウイング 〜真夜中の天使〜
薄れゆく意識の中で、僕は、僕を蹴り続ける女を見ていた
彼女のスウェードのエンジニアブーツはうずくまる僕の五体を打つ
彼女の顔は激情にかられ、無我夢中で僕を打擲する その度に長いソバージュヘアは右へ左へと大きく揺れる
なぜ、僕は彼女を怒らせたのか?
なぜ、だっけ?
ああ、そうだ このソバージュの後ろに佇む、赤いボディコンの娘に声をかけたのが始まりだ
僕はいつもの通り、夜の駅前でガールハントをしていたっけ
それほど失礼な挨拶はしなかったはずだよ? それでも紳士的な振る舞いが欠けていたのかい? 僕はいつだって人を怒らせる そんなつもりは無いのに
少し離れたところから、ボディコンの娘は、折檻される僕を愛くるしい瞳で見つめていた 僕は投げキッスをしようとしたが、ブーツのソールは容赦なく僕の横顔にのしかかり、僕の唇は夜のアスファルトに触れた
ああ、よりによって彼女のブーツが鉄板入りとは、我ながらついていない
ネオンに照らされた雑踏はけして止まることなく流れてゆく ピックアップした四駆の黒々とした底が見える 四肢の痛み 薄れゆく意識
ブーツの側面に油性ペンで描かれたミニーマウスが、ニッコリと笑っていた