洗礼と養殖漁業の「工夫」(南伊勢町前編)
何千匹の鯛が泳ぐ生簀の中で自分も泳ぐ。泳ぎながら、一定の深さで冷たくなる水温や、届きそうで届かないマダイに手を伸ばしてみたり。網の中で泳ぐマダイは何を思っているのだろうと考えていた。
だいぶ間が空いてしまいました。ふとしたタイミングでスキの通知を見たりしながら、いつかやろう、いつかやろうで半年が過ぎ、走行している間に何を書きたいのかわからなくなっていました。
久しぶりに、南伊勢町に行ってきた時の話を思いつくままに書きたいと思います。
友栄水産滞在日誌
①まるきんまるに到着するまで
先月、大学の授業終わりに新宿バスタに到着。久しぶりに旅に出る高揚感を味わいながら、夜行バスに乗り込みました。
伊勢市駅で夜行バスを降りて、息をつくのも束の間、ここは目的地のまだまだ手前。
駅前から出るバスに乗って南伊勢町へ向かいます。市街地を最初は通っていたのですが、20分もしないうちに山々が広がる山間地域に突入しました。伊勢志摩半島のど真ん中を僕ともう1人ぐらいを乗せたバスはバス停なんてなかったかのように走っていきました。
バスに揺られて1時間ほど、南島道方というバス停に到着しました。
もう1人の同乗者はガソリンスタンドの裏に居なくなったと思ったら、停めてあったであろう自家用車でどこかへ行ってしまいました。
一方、私は気が抜けません。そこからさらにもう2本、バスを乗り継がなくてはいけなかったのです。
残り3.5kmが絶妙に遠い!これから行くところはそれだけ「奥」にあるのだなと感じながら乗り換え口の阿曽浦口でバスを待ちました。
目的地の阿曽集落に行くバスは十数分後、バス停の隣にある可愛らしいベンチに腰を落としてバスを待っていた所、5分もしないうちに一台の車が、バス停の前に止まりました。
中から初老のおばあさまが話しかけてくれました。そうです!と答えると
と車に乗せていただきました🙇♂️
それからおばあさまに「どちらまで行くの?」と尋ねられて、目的地を伝えると
僕の南伊勢町での最初にお話しできた方は、これから4日間お世話になる漁師さんのお母さまでした。
②阿曽浦に到着、念願の友栄水産
優しいお母さまに送っていただき、目的地の南伊勢町阿曽浦に到着しました。
人口は750人ほど、南伊勢のリアス式海岸の間に位置する小さな漁村です。目の前に海があるのに海の向こうに山が見えるという不思議な風景が広がります。
そんな阿曽浦で生まれ育ち、マダイを中心にした海上養殖をされている漁師さん。それが今回会いに行った漁師さん、友栄水産の橋本純さんでした。
純さんと僕は1年以上前、ポケットマルシェ(株式会社雨風太陽)を特集するTV番組でリモートでお話を伺いました。
全国の旅館や飲食店に養殖マダイを卸していた友栄水産は、コロナ禍で、旅館や飲食店が休業してしまい、大打撃を受けてしまいます。
そんなピンチに橋下純さんは行き場のなくなったマダイをポケマル(産直ECサイト)で5670匹販売することを掲げて #5670プロジェクトを始動。
マダイ丸ごとを5670匹も販売するという、個人直販では前例のないチャレンジを達成しました。
そんな新しい取り組みにチャレンジしている友栄水産のもとには、たくさんの学生がやってきます。
今年の春には、インターンなどで友栄水産に関わった人たちの集まりがあり、そこには十何人もの20代の若者が集結していました。
産直ECの活用と、若者の関与、純さんの周りには新しい風が吹き続けています。
③初めての洗礼
友栄水産に到着して、5分も経たないうちに、純さんはおもむろに水槽から一匹の真鯛を取り出して慣れた手つきで捌きはじめました。捌き方のコツを僕に教えてくださりながら、素早くウロコをとり、内臓を取り出していきます。
一体何が始まるのだろうか?と純さんのそばで佇んでいると、純さんは僕の手に小さな何かをのせてくださりました。
それはタイの心臓でした。大きく身もしっかりしたマダイからは想像もできないほど小さな心臓でした。
「心臓を食べると味が魚ごとで違う。マダイはクセがない。」
締めたてで養殖だからこそできる試食である。そして、純さんは、養殖を長年やり続けているからこそ、魚ごとの味の違いを知っている。初っ端から、養殖漁師としての「プロさ」を感じる瞬間でした。
④同世代の学生と出会う
そんな友栄水産には、学生がひっきりなしに、インターンをしにやってきます。
僕が滞在している間も、東京海洋大学の学生2人がインターンできていました。
船の水槽の中から鯛を取り出す作業、学生二人が悪戦苦闘する一方、純さんは簡単に魚を救い出している。
学生二人はその姿勢を見て、なんとか体得しようと頑張っていました。
魚を水槽から取り出すには、四隅に魚が行ったときのタイミング、背中から網を入れる網の使い方、網を素早く引き上げる筋力と冷静な手捌き。ちょっとした作業ですが、様々なことを意識した作業であり、私が使ってこなかった頭と体を使った「工夫」の数々がここにはあると強く感じました。
⑤漁師の作業をやってみる
今回の滞在は、マダイ養殖の現場を学ぶ漁師インターンとしての滞在、早速、漁師の仕事の一部を体験しました。
養殖の網についた海藻や貝殻を水できれいにしたり、
綱のほつれを真っ直ぐにしたり、
早朝に行われるマダイの出荷の数を数えたり、
水槽と水槽で魚をいくつか入れ替えたり、
漁師と聞くと、船で網を巻いたり、一本釣りなどを想像する人の方が多いかもしれません。
しかし、ここは養殖の漁師さん、漁業資材、養殖している魚の丁寧な管理が求められる職場でした(養殖漁師さんがいかに「プロ」かは後編に書きたいと思います)
一個一個の作業は特別な技能は必要なく、単調な作業も多いです。
ただ、一つ一つの作業がちょっとづつ、先ほどのような「工夫」が見られ、
学生がやる作業の、2倍以上のスピードで漁師さんたちは仕事を終わらせます。
一つ一つの作業で自分の作業が遅いことを感じながらも、友栄水産の社員さんたちに優しく教えていただきながら、「漁師作業」を進めました。
滞在中の日々で感じたことや、
友栄水産の皆さんの姿を見て感じたこと、は後編に書きたいと思います。
後編へ続く。