出会った韓国人とカンボジアの原風景を背に語り合う | 海外ノマド旅8日目
異国の原風景を見て郷愁を感じるのはなぜだろうか。
ずっと眺めていたい気持ちとは裏腹にタクシーは進んでいく。
住んだこともなければ訪れたことすらない、それなのに何故だか懐かしい気持ちにさせられる。平坦な地形が続き、地平線まで広がる景色は、まさに壮大。
自分が未知の世界に進んでいるにも関わらず、心のどこかで安心感がある。
これからも旅は続き、新たな経験が未来で待っている。そう思うと心が躍る。
旅は一期一会。訪れた土地で出会いがあり、そして別れがある。その瞬間瞬間を丁寧に味わいながら、今日もまた旅が始まる。
前回のあらすじ
会社員でリモートワークしながら、バックパックひとつで旅をする生活が始まり1週間が経過。タイ・パタヤでの生活にすっかり馴染んだ頃合い、陸路でカンボジアに移動することに。
バスに揺られること数時間、タイの国境付近アランヤプラテートに到着。
道に迷っていたところ、同じバスに乗り合わせていた韓国人のジンさんに助けてもらう。お互い目的地がカンボジアの古都シェムリアップであると判明。それなら一緒に国境越えをしようということになり、近場のトゥクトゥクを拾って国境までやってきた。
タイから陸路でカンボジアへ入国する
陸路で国境を越えるのは始めての経験だ。とても緊張する。入念に下調べをしたので問題はないと思うが、旅にトラブルはつきものだ。気をつけすぎて損はない。
柵に囲まれた通路を通過して出国手続きの建物へ入館する。軽い手続きを済ませ、すんなり出国することができた。しかし、この後の入国審査が鬼門である。
入国審査をする建物の前には大勢のキャッチが待ち構えており、「ここでビザを発行しないと中に入れないぞ!」と脅かしてくる。
館内でビザを発行すれば問題ないのだが、情報を知らない人はここで余計な金額を支払わされることがある。もし訪れる機会があれば、気をつけていただきたい。
私含めジンさんは、事前にぼったくりの情報を仕入れていたので問題なく通過することができた。入国審査のために館内でビザを発行し(30$程度)いくつかの質問に受け応えて、無事カンボジアへ入国することができた。
入国手続きといえば、恐ろしい数の行列に冷や汗をかくイメージがあった。しかし、空港のように人で溢れかえっている、なんてことはまったくなかった。私たち含め10人にも満たない人数だったため、すんなり入国することができた。
タクシーで古都シェムリアップへ向かう
カンボジアの地に足を踏み入れることができた喜びをジンさんと共有しながら、シェムリアップへの移動手段を考える。
外に歩みを進めると、バスの運転手たちがこぞって集まってきた。見事に勧誘大合戦に巻き込まれた。どの選択肢がベストなのか吟味したかったので、近場の木陰に避難することにした。そして、休憩も兼ねて情報を調べ始めた。
結果、タクシーを相乗りして目的地を目指すのが費用的にも優しいということに結論付いた。近くに居た運転手と交渉し、20$(2人分)で移動してくれることが決まった。
ここポイペトから目的地のシェムリアップまで距離にして約150km。そう考えると20$はとても安く感じる。加えて、乗車してるのは私とジンさんの2人だけだ。実質プライベート空間が保たれているといえよう。快適なことこの上ない。
と思ったのも束の間、カンボジアのタクシー運転手、運転が荒い!すごい速度で一般道を突き進んでいく。たまに歩行者や自転車、牛などが横で移動しているが、お構いなしにフルスピードだ。
なんともエキサイティングな運転手に巡り会えたことに感謝しながら、自身の身の安全を全力で祈った。
到着まではまだ時間がかかるようで、ジンさんとお互いのことを話し合った。彼は英語があまり得意ではないらしく、時折スマホの翻訳アプリを使って伝えたいメッセージを日本語訳してくれた。
韓国文化は日本の若者の間で流行っているので、そのことを伝えると嬉しそうにはにかんでいた。ジンさんも「日本のこの曲が好きだ」とタイトルを見せてくれたが、少し古い曲なのか、私の知らないものだった。イヤホンを借り、曲を聞かせてもらうと、昭和世代の懐かしいメロディーが鼓膜に響いた。
ジンさんの年齢は30後半、私の年齢は20代半ば。ひとまわり世代が違うにも関わらず、友人として接することができるのはジンさんの人柄がゆえだろう。とても気さくで、親しみやすく話しやすい。
日本と韓国は歴史柄、いがみ合う関係性として扱う人もいるが、国を越えた人同士の交流に国籍など関係ない。そう改めて認識することができた瞬間であった。
タクシーから眺めるカンボジアの平原
目的地まで中間距離に差し掛かかり、ふと窓の外を眺めてみた。すると、そこには地平線に広がる壮大な原風景が存在した。どこまでも続いてると錯覚させられる、そんな郷愁漂う景色に心が躍る。
日本とは異なる地形に戸惑いつつ、外の景色に意識を合わせる。昔の人はこの光景を見てなんと思ったのだろうか。そんな、考えても答えの出ない問いをするのが案外好きだったりする。
隣を見ると、ジンさんも同じように外の景色を見やっていた。韓国でもこの眺めは珍しいのだろうか。
ふと、ジンさんが旅をしている理由が気になった。
私 ジンさんは何故旅をしているの?
ジンさん ダイビングが好きなんだ。綺麗な海を求めて時たま旅にでるんだ。
私 ダイビングか〜!いい趣味ですね。カンボジアはダイビングのイメージなかったぁ。
ジンさん シアヌークビルなんかは海が綺麗だよ。カンボジアの海辺にある都市で、観光地としても有名なんだ。
それを歯切りに、今まで訪れたダイビングスポットの写真を何枚か見せてくれた。海の話をしている時のジンさんの目はとても輝いていて、凄く楽しそうだった。
その後も和気藹々とお互いの趣味や過去の経験などについて語り合った。気づけばあたりの日が暮れてきた。ふと外を眺めると、そこには夕日が地平線に追いつこうとしている最中であった。
夕焼け姿の草原に、胸が熱くなるのを感じた。こうした非日常の何気ない風景が、旅の思い出として色濃く残るのだろうな。そう思いながら、オレンジ色に燃える太陽が徐々に姿を隠していく光景を目に焼き付けた。
シェムリアップだ!パブストリートだ!
日がすっかり暮れた頃、ようやく目的地であるシェムリアップに到着した。タクシーの運転手にお金を渡し、外の空気を堪能する。お互い宿の距離も近かったので、あとで一緒に夕食を食べる約束をしてその場は解散となった。
シェプリアップはアンコール遺跡以外にも、ここパブストリートが有名だ。名前を聞いて、なんだか如何わしい想像をしたのは私だけだろうか。
パブはパブリック・ハウス(Public House)の略で、ギリスで発達した酒場を意味する。つまり、パブストリートはお酒の集まる場所なのだ。まったく如何わしくもなんともない。
このエリアは、国際的な料理からカンボジア伝統料理(クメール料理)まで多様なレストラン、カフェ、バー、そして屋台が並んでいる。昼は只の道路だが、夜になると歩行者天国となる。ライトアップで彩られたパスストリートは、生演奏やダンスも行われ、常に楽しい雰囲気に包まれている。
軽く当たりを散策してからジンさんと合流した。宿泊先のホテルの感想を言い合いながら周囲のレストランを見渡す。レパートリーが多すぎて悩ましい。
カンボジアに来たからにはクメール料理!というほどの拘りをお互い持ち合わせていなかったので、パッと目についた洋風のレストランに入店した。入店、といってもテラス席のようなもので、実質外である。
カンボジアの夜に本音が溢れる
メニュー表を見ながら、今晩胃袋に入れる料理をどれにするか選ぶ。ジンさんはトマトパスタを、私はカルボナーラを選び、モッツァレラピザを2人でシェアして頂くことにした。
料理が届くまでに少し時間がかかるようで、ジンさんとの会話を楽しむことにした。道中タクシーではお互いの趣味や旅の話がメインだったので、今度は仕事の話をすることにした。
私 ジンさんは普段どんな仕事をしてるの?
ジンさん 〇〇業界の会社でマネージャーをしているよ。
※どうしても思い出せなかったです。確かIT系だったきがします。
ジンさん ただ、今は休職してるんだ。
私 そうなんだ。理由を聞いても?
ジンさん 実は体を少し患っていてね。休養期間みたいな感じかな。
英語で通じない部分はスマホの翻訳アプリを使って丁寧に教えてくれた。どうやら、肝臓の調子が悪いらしい。そう話していると店員が目の前にビールを持ってきた。
私 ビールは飲んで大丈夫なの?
ジンさん はは、ほんとはダメなんだ。医者に止められているけど、せっかくパブストリートに来たんだからね、今晩くらいは。
大丈夫かよこいつ、と一瞬思ったが本人の自由なので止めはしない。私だって、禁止されていることを常に守っているわけではない。
私 病気は治るの?
ジンさん 大丈夫。韓国に戻ったらゆっくり休む予定だよ。
旅の理由は人それぞれだ。純粋に観光を楽しむものもいれば仕事に来る人もいる。ジンさんがどんな想いで旅をしてるのか、確信をつくことはできなかった。ただ一つ言えるのは、旅をしてるジンさんは本当に楽しそうに見えた。
気づけば料理が目の前に運ばれてきた。カンボジアにきて初の食事がイタリアンとはなんとも味気ない気がしなくもないが、そこはご愛嬌。どこまでも伸びるピザのチーズに感動しながら、10時間ぶりの食事を丁寧に味わう。
旅は一期一会
目の前にあった食事は、時間の経過とともに私の胃袋に流し込まれていった。そして、楽しい時間はあっという間に過ぎてジンさんとお別れの時間。
私 今日は本当にありがとう。1人で国境を越えるのは不安だったけど、ジンさんがいてくれたおかげですんなりシェムリアップまでこれたよ!
ジンさん こちらこそありがとう。旅のいい思い出になったよ。この後の旅も楽しんでね。
振り返ってみると、とても濃い1日だった。ほんの12時間前まではタイにいて、パタヤのバスターミナルからバスに乗り長時間かけてカンボジアとの国境付近で下車。しかし、国境までの道がわからず、スマホの充電がほぼゼロになり路頭に迷う。
そんな時、たまたま同じバスに乗っていた韓国人のジンさんに出会う。流れで一緒に国境を越えることになり、途中ぼったくりや大勢の勧誘に揉みくちゃにされながらも、なんとかカンボジアに入国を果たす。
タクシー運転手と交渉し、シェムリアップまでの移動手段を確保。さらに3時間ほどかけて150kmの道のりを突き進み、日が暮れた頃に目的地へ到着。旅の疲れを癒しながら2人で食事を楽しむ。すべて今日1日の出来事だ。
見知らぬ土地に見知らぬ言語、聞き慣れない言葉に悪戦苦闘しながらも、順調に旅は進んでいく。そこで出会う異国の隣人たち。出会いと別れを繰り返しながら、旅の想い出が強化されていく。
ジンさんとはここでお別れだが、この1日は私にとってかけがえのない思い出として残り続ける。そして、この先に更なる出会いと別れが待っていることを想像すると、ワクワクが止まらない。
旅は一期一会。その瞬間瞬間を丁寧に味わい、今後も毎日を全力で楽しむと心に決めた瞬間であった。
そんな余韻に浸ったりながら、再び1人でパブストリートを歩いていると….
コケ!しゃぶ!がんじゃ!はっぱ!What's do you want?
突如トゥクトゥクのドライバーと思わしき人物に話しかけられた。どうやら、神様はまだ今日という日を終わらせてくれないみたいだ(続く)