うそのようなふぉんとうの家族の話
今日は僕の家族を紹介します
1人目は父のゴシック体です
芯が強くて力持ち
いつもドシッと構えているので
どこにいても目立ちます
普段は無口で温厚なのですが
機嫌が悪くなると
どんどん太くなって
「す」の穴がつぶれそうになるので
まわりは少し気をつかいます
そんな父は
我が家の大見出しです
そんな父をかげで支える
母の明朝体です
いつも笑顔で優しく
家族を安心させてくれます
太線、細線、スペース
はね、はらい、とめなどを
上品かつ繊細に使い分け
身だしなみや言葉使いには
特に配慮している様子です
そんな母は
我が家の品質の要です
そんな母とは対象的なのが
兄のPOP体です
自由奔放で多趣味
形にとらわれない生き方は
両親のそれとは一線を画します
一見ちゃらそうに見えるのですが
父にも母にもないものになろうと
実はかげで努力をしたようです
そのがんばりの甲斐あって
家の外でも重宝されています
そんな兄は
我が家の装飾の異端児です
そんな兄の影響を受けたのが
姉の丸ゴシック体です
兄が自由に育ちすぎたため
父が自分に似るようにしつけたのですが
兄の努力する姿を間近で見ながら
自分もなにかになってみたいと思い
少し丸くなってみたようです
その少しの変化がここぞというときに
家の中でも外でも力を発揮しています
最初は苦言を呈していた父も
今は自慢の娘だとご満悦です
そんな姉は
我が家の重要な飛び道具です
そんな姉をよくがんばったと
近くで見ながら何もしていないのが
僕、oosakaです
シンプルな細めのゴシック体です
ちょっと前は大御所に好かれて
ちやほやされていたのですが
最近は全然必要とされなくなりました
そんな現状を両親は按じていますが
僕は全く気にしていません
太くなる気も丸くなる気もありません
このままがいいんです
そんな僕は
一家の心配事です
そんな僕の唯一の自慢が
彼女のUD書体です
子供、老人、性別、国
車いすの人、目の不自由な人など
みんなに太さや形をかえながら
優しく接するその姿に
僕は一目惚れをしました
一見父や母と同じように見えますが
その細部は誰にでも見やすいように
繊細な工夫がなされています
そんな彼女と
僕はもうすぐ結婚します
しかし、そんな彼女を僕から奪おうと
思わぬ敵が登場します
その男の名は、楷書体です
行書、草書と並ぶ老舗企業の御曹司で
数千年もの歴史を少しずつ形を変えて
引き継いできたその価値は
現代でも衰えを知りません
そんな彼は
この国の伝統そのものです
兄もときどきグチを言っています
「なんだよ、結局あいつになるのかよ」と
彼は彼女と僕が婚約していることを知りながら
なんと彼女にプロポーズしてきたのです
そして僕に言うのです
「あんなすばらしい彼女に
君のような書体は不釣り合いだ
彼女は僕と一緒になるべきなんだよ」と
バチッと言い返しそうと思いましたが
何も言えませんでした
よくよく考えると
彼の言うとおりだなあと思うのです
彼女のような優秀な書体が
私のような書体と一緒にいていいのかと
彼女にはもっとずっと一緒にいるべき
立派な書体があるのではないかと
でも、彼女は言うんです
「わたしはあなたの
どんな時代でも形をかえたりせずに
ずっとあなたのままでいるところに
この上なく惹かれているのです
きっとあなたを必要する人の中に
わたしを必要とする人はいない
だからわたしは
あなたと一緒にいたいのです」と
泣けてくるでしょ
僕にそんなこと言ってくれる彼女を
僕は一生幸せにしたいと思っています
いつか子供が生まれて
川の字になって3人で寝ることが
今の僕が描く夢です
子供は多分細めのUDゴシック体かな
子供はきっと僕に言うでしょう
「ママはみんなのために
太くなったり細くなったりいろいろするのに
何でパパはずっとかわらないの」と
でも、僕は胸をはってこう答えます
「パパは誰も必要としないときでも
ずっとこのままでいるよ
パパはね、パパが好きなんだよ」てね
あ、でも3人とも「川」の字になったら
川川川になっちゃうから
3人とも数字の「1」になって寝ようかな
でもそれではただの百十一になってしまうな
全員寝相が悪くて朝になったら
「三」とか「工」とか「Y」とかになってたりして
そのうち子供が増えて3人になったりしたら
「日」とか「区」とか「玉」とかになってたりして
ふざけて「な」「ぬ」「ね」「み」「む」になって
朝起きたら穴にとめとか払いが入って5人がこんがらがって
「もおう、全員ダッシュ(―)になりなさあい」て
彼女が怒るから「―――――」で朝ご飯を食べたりして
次はあえて「鬱」「塵」「驫」「龍」「鸞」て画数過多になって
ああ、もう、なんなんだよ
よくわかんないことになってるよ
いやあ、楽しみだなあ
※この話はフィクションです。
実際の書体とは一切関係ありません。