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娘は「コロナ菌」と呼ばれていた

「また、不登校になるの!いい加減にしてよ!」
2021年1月。3学期が始まってまもなく。
娘が学校に行きたくないと言い出した。

小学校で味を占めたか、このガキンチョめ!
「今回は小学校みたいに転校とかできないんだから、学校に行って」
「やだ、行かない」
「はああああ?」
頑なに行こうとしないし、ベットから起きようともしない。
イラついた私は娘の布団を引っぺがした。
「何すんのよ!寒い!」
「うぅるさい!早く学校に行く支度をしなさい!」
「行きたくないって言ってるじゃん!」
そう私に叫ぶと、私の腕から布団を取り返した。

「今回はなんで行きたくないわけ?」
目の前の布団の塊は、返事をしない。
「休むにしても『学校行きたくないって言ってます。』で話が進むと思うわけ?
先生に何だかんだと聞かれても答えられないのは困るんだけど」
しばらくして、小さな声が聞こえてきた。
「何?聞こえない」
「私が咳き込むと、コロナ菌って言われるの!」

苛立ちの捌け口になっていた

娘は小学校高学年の時に喘息と判定を受けていた。
元々、症状が重く小学校の時のクラスメイトは娘が喘息だと
知っており、フォローもしてくれた。
そんな甲斐あってか、症状も安定していて普通に生活していた。
でも、中学校に上がって、環境が大きく変わったからなのか
発作の回数も多くなっていた。
世間はコロナ禍だったこともあり、入学して学校が再開した時に
咳き込む娘に嫌がらせが起きないように、説明にも行った。
クラスメイトにも、咳き込むことがあるが喘息持ちなので
コロナではないと直接話をしに行った。

が結果はこの有様だった。

学校再開が始まってすぐ、喘息発作を起こした娘は
保健室に運び込まれた。
その日は、私が迎えに行きそのまま早退。
症状が落ち着くまで、1週間休んだ。
その時に「アイツってコロナだったんじゃね?」と
男子生徒が言い出した。

そこから話は尾ひれがつき、コロナで入院したとか
コロナが治っていないから学校休んでいるとか
そんな話がクラスを包み込んでいた。
得体の知れないウイルスによって子供達にもストレスがあったのだろう。
どこにも責めることが出来ない状況。
学校も休校だったり分散登校だったりで安定して通うことが出来ない。
そんな苛立ちの中、一人のクラスメイトが言った。

「アイツがこの学校にコロナ撒き散らかしてるんだよ。アイツ学校来なくさせてやろうぜ。みんな、アイツ学校に来ても無視しろよ。」

結果、娘は濡れ衣を着せられ、クラスメイトから総スカンに遭ってしまい
休んだ時の学習にも追いつくことが出来なくなり
だんだんと追い込まれてしまった。
喘息の発作を引き起こすまでではなかったが
持病持ちの心を抉るには十分だった。

今回、ここまで私が事態を把握できていたのは
娘が携帯電話を常に持ち歩いていて、録音をしていたからだった。
私には誰が話しているのかわからないけれど
娘が言われていることを確認することが出来た。
「向こうに行けよ!コロナ菌」
「お前がいるから、隣のクラスでコロナが出たじゃん。もう来るなよ」
「うわぁ!こいつコロナ菌排出し始めたぞ!みんな消毒しろ!」
大人の私でも、泣きたくなる暴言がそこには保存されていた。

母は戦いに挑むことにした

その日、娘も私も休んで、学校に直接話をしに行きたいとアポをとった。
担任も教頭も、どうせいつもの様に体調不良で休むんだろうって
思っていたようで、事態を深刻に受け止めていない様だった。
学校に行く前に娘の病院に寄って、診断書を作成した。
私には、どうしてもやらなくてはいけない事があったからだ。
「大変申し訳ないのですが、ウチの娘を皆さんにお任せできないなって思って
話をしに来ました。」
「体調不良でこのまま通うことが出来ないってことですかね?」
「いいえ。この様な発言をするクラスメイトと一緒に過ごすことはできないですし
それを見逃していた先生方を信用できないと言っているんです。」
は?って顔をして私を見る二人。
私は娘の携帯電話を出し、朝聞いた録音を流した。
笑顔だった二人も録音を聞いていくと、どんどん顔が青ざめていって
再生が終わった頃には、俯いていた。

「こんな事があったんです。これで安心して娘を預けることができると本当に思いますか?」
「本当に大変申し訳ございません・・・。」
「私、学校始まってすぐに娘の持病について説明に行っていますよね?その話を聞いていない生徒さんって居ました?」
「いえ、分散登校で3回にわたって、説明して頂いてますよね。」
「そうですよね。知らない子はいないと思うんです。でも、これはなんでしょうか」
「ほ、本当に申し訳な・・・」
「謝ってくれって言っているんじゃないんです。なんなのか聞いているんです」
私の問いかけに言葉が詰まって何も言えなくなっている二人の教師。
「私どもの監督不行届の結果だと思います。」
「答えになってません。じゃあ、分かりやすく聞きます。この録音されていた内容は世間一般的には何に当たりますか?」
私は声を荒げず、静かに聞き直しをした。
「・・・・イジメだと思います。」
「そうですね。私もそう思いました。」
「この事はクラスで話し合いを行いたいと思います!」
「いいえ、行わなくていいです。まず先生方には協力していただきたい事があります。謝っていただかなくても結構です。謝ったところで娘の心の傷は癒せません。
ですから、先生方も話をして頂かなくても結構。ただ、該当生徒と親をまず今日この場に呼び出しをしてください。」
「い、いやこれは、学校で起きたことなので私どもで・・・・」
「解決できないから言っているんです。何回も言わせないで下さい。この問題は当事者同士でまず話をつけないといけないんです。」
私の言葉にお互いの顔を見る教師たち。
「聞こえませんでした?呼び出してくださいって言っているんです。今すぐ!」
私の気迫に根負けした担任が席を立った。残った教頭はオロオロしながら座っている。
「教頭先生は、該当生徒が来たら校長と学年主任を呼んで下さい」
多分、この時の私の顔は相当悪人ヅラしていたんだろうな。
私と目が合うと真っ青な顔をして「はいい!」と言って席を立った。
一人残った部屋で、用意してきたコーヒーを口に運んだ。

やる事は決まっている。
該当生徒、そしてその両親と直接話をする為。
当事者だけでは、言った言わないになるため、最低でも4人立会人が欲しかったからだ。
この問題は学校に任せず、自分で弁舌合戦をしないと解決しないと思っていた。


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