ブランド=(記憶+体験+知覚)+連想、であるということ
前々回に引き続き、ブランド戦略について。
実は、この「ブランド」ということばはややあいまいに使われています。民間企業でもその傾向はありますが、地方自治体では特にその傾向が強い気がします。
よく耳にするのは「地域ブランド」といういい方です。あとは「自治体ブランド」でしょうか。
「地域ブランド」という場合は、古くは「松阪牛」「宇都宮餃子」「夕張メロン」などに始まり、その地域を代表する地域産品と地名が合体したものを指す場合が多かったように思います。
それから「美し国」(三重県)、「うどん県」(香川県)、「おしい!広島県」などのキャンペーンも地域ブランドづくり(ブランディング)の一環でしょう。この場合は、ブランドメッセージ(キャッチフレーズ)がブランドを表現するものとして使われてきました。
前回話題にした「ゆるキャラ(R)」も各自治体がブランドづくりの一環だと考えているからこそ、過熱ともいえる活動が今も繰り広げられているわけです。「くまモン」ほどに経済効果が高いとなると、確かに地域ブランドづくりに大きく影響を及ぼしているのは事実です。
ここ数年では「ふるさと納税(寄附)」も地域ブランドづくりに貢献する新たな手法として注目されています。もちろん、各自治体とも歳入の増加が第一の目的ではありますが、地域産品を返礼品として使うことが前提とされているので、地域のアピールにつながっているわけです。
「地域ブランド」とひと言でいっても、このようにいくつかの側面がありますが、やはり産業振興、観光振興を目的として「ブランド」を捉える傾向が強かったものと思います。これはこれでひとつのあり方としてはアリです。
ただし、翻って地域のブランド、場所のブランドとはどういうことなのか、ここで一度整理してみたいと思います。まず、「ブランド」とは何なのか、「ブランディング」とは何を意味しているのか。
ブランド:
企業、組織、集団、あるいは個人との接点を通じて獲得された情報、体験、知覚およびそこから派生する連想の総体。
ブランディング:
企業、組織、集団、あるいは個人を存在させる表象と思想を、消費者や顧客、市民に対して記憶、体験、知覚させること。
つまり、もともとの意味の通り、ブランドとは「刻印」(焼きごて)そのものであり、ブランディングとはその焼きごてを使って、人々の心や身体にジューと「刻印すること」(焼きつけること)を意味しています。逆に消費者や市民の立場でいうならば、「刻印で焼きつけられること」です。もちろん、物理的な意味ではなく比喩ですが、大きく分ければ、このように二つの局面があるということです。
そして、その「ブランド」を微分すると、記憶+体験+知覚に加えて、そこから派生する連想を足し上げた合計が「ブランド」であると考えます。
つまり、(記憶+体験+知覚)+連想です。
ブランドの定義
私の勤務する四街道市に当てはめてみると、こんな感じです。
記憶…「子育て日本一を標榜し、都心から50分程度で通える、自然豊かな街」
体験…野菜や落花生の収穫体験、市民活動への参加
知覚…森の木々や緑の色彩、土の触感、街の景観や雰囲気から得られる直観
たとえば、このような情報を記憶し、体験し、知覚すると、「家庭を持つのに適当な街だ」というようなことが想像、推量できるでしょう。また、その想像をベースにして「親しみやすそう」「心地よさそう」などの連想も生まれるかもしれません。もちろん、四街道にすでに住んでいて、子供の医療費が無料であることや古くから松並木があることも知っていて(=記憶)、中央公園で行われる夏祭りや日々の出来事に触れていて(=体験)、陽の光を浴び、気温を感じ、学生たちのおしゃべりを聴いている(=知覚)ならば…その合計値が「四街道市ブランド」です。
ただし、それが行政側の企図する「ブランド」であるかどうかはまったく別の話です。地域のブランド、場所のブランドにおいて、行政がコントロールできる部分は限られているからです。
それでも行政はブランドづくりの有力なリーダーのひとりです。リーダーのひとりとして「こうありたい」というブランド像を描くならば、市民に対して、
何を記憶してほしいか(perception)
どのような体験をしてほしいか(experience)
どのように感じてほしいか(feeling)
をきちんと考察し、「こんな街として認識してほしい」という設計図(ブランドアーキテクチャー、ブランドプラットフォーム)をきちんと作る必要があります。このように考えていくと、産業振興や観光振興のための「ブランド」だけではなく、街の違った様相も見えてくるのではないでしょうか。
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