見出し画像

【 般若心経の解釈多すぎ問題について① 】般若心経成立までの歴史をざっくりと

般若心経といえば日本で一番読まれているお経と言ってまず間違いないと思う。
仏教各宗派はもちろん、神前でも唱えられるし、難解な空理論の根拠であったり、除災招福の呪文であったり、果ては自己啓発系セミナーのテーマだったり、怪しげな霊感コンプレックスビジネスの元ネタにされたりもする。もうなんでもアリ状態な印象。

色々と般若心経の解説を読んでみて、概ねだいたいこんな感じなんではないかという感覚にほんのちょっぴり取っ掛かりができた気がするので、整理のためにも自分なりに①〜⑥にまとめてみた。(※あくまで私個人の見解です…)

①般若心経成立までの歴史をざっくりと
②自我も創造神も否定する「空」と「因縁」
③玄奘三蔵の唯識的般若心経
④弘法大師空海の密教的般若心経
⑤言語の限界と仏教の身体性
⑥まとめ

①般若心経成立までの歴史をざっくりと
大乗仏教を代表する経典である『般若経』の原型は紀元前後頃に古代インドで成立していたと考えられており、『八千頌般若経』が最古の基本形とされている。その後も様々な『般若経』が編纂され続け、後に中国で玄奘三蔵がこれらの関連経典群を持ち帰って漢訳し、集大成としたものが『大般若波羅密多経』600巻である。『般若心経』はこの『大般若経』の真髄を抽出したものであるとするのが一般的な認識だ。

『般若心経』のサンスクリット原典には小本系と大本系の二種類があり、チベット語、漢訳としても数多くの翻訳が現存する。
小本は『般若心経』の中核的な部分だけの典籍を指し、大本は中核的な部分に序文と流通分を付加している。
現存する最も古い『般若心経』は8世紀後半に日本に伝わったサンスクリット語写本で、小本は法隆寺に、大本は長谷寺に保存されてきた。世界最古の写本がインドではなくここ日本に現存するというのはとても感慨深い。

その後8つの翻訳が作成される。現代日本において最も有名で流通しているものは玄奘三蔵が訳した『般若波羅密多心経』とされているが、鳩摩羅什訳『摩訶般若波羅密大明呪経』との類似もあるため、諸説が入り混じっている。

そもそも般若経は当時の古代インドで最有力の仏教部派であった説一切有部が唱える「三世実有法体恒有」の思想、つまり言葉の指し示す概念は実在し、物の構成要素には固有・不変の本質があるとした解釈と、それまでの釈尊の教えを固定化し教条主義的な考えに固執していることへの強い批判と否定の意味が込められた経典である。「無」「不」「空」の連続パンチはこのような経緯で挿入された。

そしてこの『般若経』を詳細に考察し、伝統部派による縁起解釈に対して、「縁起すなわち原因によって生じるものごとは固有の本質をもたない」という「空」の立場から改めて批判したのが中観思想の祖であるナーガールジュナ(龍樹)であり、後に三論宗として奈良時代に法隆寺に伝来することになる。

●写真: 秋季金剛界結縁灌頂の時の高野山壇上伽藍 大会堂

[ 参考書籍/Web ]
空海 般若心経の秘密を読み解く(増補版) /松長有慶著(春秋社)
般若心経 金剛般若経 /中村元・紀野一義共著(岩波書店)
日本仏教史/末木文美士著(新潮社)
般若心経/山田無文著(禅文化研究所)
眠れなくなるほど面白い般若心経/宮坂宥洪著(日本文芸社)
大覚寺関連用語データベース
総本山智積院教化センター第16回愛宕薬師フォーラムより

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?