ニュージーランドのギフテッドプログラムを見学したら素晴らしかったという話(下)
こんにちは!ギフテッド支援に関心のある高校生、Kayです。
ここまで長くなってしまった連載を読んでくださりありがとうございます🙏
今まで、マインドプラスが実施されている2校を訪問させていただきました。
最終回の今回は、教師の方を交えたNeurodiversityの会でのことや、訪問中に先生から聞いたお話などについて書いていこうと思います。最後に、訪問全体を通してのまとめも記載しておりますので、ぜひご覧ください〜
※写真の掲載許可はいただいております。
Neurodiversityの会
マインドプラスの母体となるNeurodiversity in Education Coalitionでは、
"Neurodiversity Champions"として、15~23歳のギフテッド当事者の方たちが、その理解を広める活動を行っています。
今までの記事で書いた学校訪問の後、
教師の方3人と、Championからニキータさん、マドレーヌさん、見学者の私の計6人で、「学校がどうNeurodiversityを取り入れられるかを考える会」が実施されました。
マドレーヌさんのプレゼン
マドレーヌさんがプレゼンを通して、
学校が取り入れてほしいことについての説明をしました。それが大きく分けて以下の3つ。
感覚過敏への配慮
本
そして彼らを見つけよう!
一つ目の感覚過敏への配慮は、例えば、大きすぎる学校のベルの音を小さくする、いつでも誰でも使える部屋を用意する(2校目でご紹介しました。日本の保健室とも近いかもしれません。)、騒ぐ子には静かにするよう指示するといったシンプルなことから取り組んでほしいと話していました。
Kay個人の体験では、モニターの近い座席の時に、zoomや流す動画の音量が大きく、少し不快に感じることが多かったので、音に過敏な生徒は音を発する機器からは離れた席に配置する。また、そういう時大抵私は髪を下ろしてこっそりイヤホン(耳栓)をして物理的に聞こえるボリュームを下げでいるので、耳栓はいつでも取り出して利用していいというルールにして、決してこれからの音声を聞かない意思表示をしているわけではない(笑)ということを先生には理解していただけたら、と思ったりします。
逆に騒ぐ子の声を不快に感じたことはないんですけど…なんでだろう。
(A. Kayは絶望的に人への興味が欠けているから。)(嘘です興味あります。)
そして2つ目の本については、ADHDについて理解を深められる本の紹介がありました。
違いがあるのは普通のこと。
彼らは欠陥でもなければ、劣っているわけでもない、ただ「違っている」んだとお話ししていました。
「その違いを祝福しよう!」と。
ADHDなどに関して気軽に読める本を学校に設置するのはメリットしかないと思います。特に教師の方は忙しいので、このようなわかりやすいカジュアルな本から理解を深められるといいのかなと思いました。
また、3つ目の「ギフテッド特性を持つ生徒を見つけよう!!」では、
「ネットでギフテッド特性に関することを検索すると「自閉症傾向」だとか「過度激動」だとか欠陥のようなものばかり目に入ることがありますが、そのようなことばかりではありません、彼らには強みがあるんです。」とマドレーヌさんは話し、
「強み&少し難しい点(strength & sticky things)」として特性を解説し、それらを踏まえた上で、社会的、情緒的なスキルを身につけていくサポートが必要とお話ししていました。
これらのお話は、4種類ほどの素敵なデザインのパンフレットにまとめられていて、私も何部かいただきました。ところが、日本帰国後全くそれらが見当たらない。あぁぁ今回の会の詳細をご紹介したかったのに、本当に不甲斐ない…。申し訳ありませんが、ざっくりとした内容だけでも理解していただけたら幸いです。
その後、自分の脳内を伝えるカードゲーム「Welcome to My Brain」を実際に教師の方々を含めて体験した後(こちらについては別の記事でまとめています。)、コーヒー片手に感想のシェアが行われ、会は終了となりました。
教室内をふらふら
実は会が始まるまでかなり時間があったので、教室を見て回って気がついたことを少しご紹介しようと思います!
パズルやボードゲームなどの隣には、本棚と雑多に置かれた様々な本たち。
哲学への興味について話していたら、マドレーヌさんが絵本の中から哲学の本を出して私に勧めてくれました!
イラストや図とともに主となる議論が解説されていて、こんなわかりやすい本は日本、ましてや小学校にあるのかなぁなどと思いました。もっと読みたかった。物語、宇宙、歴史、生物からMENSAの問題集までありました。(Kayも挑戦してみたのですがIQクイズはWISC-Vより幅広いタイプの問題があり、難しすぎて1分程度ではわかりませんでした笑)
壁に貼られていた偉人の言葉たち。
名言集かなにかかと思ったら違いました。
前回の記事でご紹介した通り、2024年は「Power」をテーマにカリキュラムが考えられていて、「政治の力」についても以前授業で取り扱ったと聞きました。
これらの張り紙も、その関連と思われます。
「私は権力を信じるが、権力は責任を伴わなければならない。…私はもう大統領になりたいとは思わない! ーーアメリカ第26代大統領 フランクリン・ルーズベルト」笑
このルーズベルトの言葉に対し、問いが書かれていました。
「権力者が権力者であることを望まないのはなぜか? 考えられる理由を挙げてください。」
この問いについて、みんなで考えるようです。権力と責任の関係についての授業、高度ですね。
また、壁を辿って張り紙を眺めていると、
みんながクラブで何をしたのかが書かれた紙を見つけました。
・数学の複雑な問題を解いた
・Scratchゲーム製作
・作曲とそれに合わせた動画
・マッチ棒製作(!?!?! エッフェル塔を作ったそうです。)
・サンリオキャラクターの絵(ジャパニーズカルチャーの浸透をまたも感じる!)
などなど書かれている中で見つけたんですこれを!
・Origami
もしかして!!!君か!?君なのか、折り紙少年!?(※(上)記事参照)(冷静に考えて折り紙はメジャーだから誰でもやるし、クラブ活動まで折り紙に没頭しているのかは確率としてそこまで高くない)
さてOrigamiで何を作ったのか…
・Kudasama
くださま…?日本語だよねきっと、、"Kudasama"と検索して出てきたのがこちら。
くださまじゃなくて、くす玉じゃないか!!!"Kusudama"が"Kudasama"のスペルミスでネットに広まっているのを見て、"くださま"になってしまったのか!!だがそのミスさえ愛おしい!!
にしても高度な折り紙をチョイスしたなぁと思いながら、Origamiという言葉を見るだけで心が温かくなってしまうKayでした。
私が質問したこととその回答
マドレーヌさんをはじめ、学校のスタッフさんに伺った内容をまとめました。ぜひ気になるものを読んでみてください。
「ギフテッドの完璧主義についてアドバイスはありますか?」
「あなたの想像する"完璧"は、実は存在しない、と伝えているのよ(笑)」とマドレーヌさん。
「ギフテッドの子たちは、比較的楽に短期間でなんでも習得してきた経験を持つ子も少なくないから、努力を積み重ねて、紆余曲折を乗り越えて達成する人生経験を知る必要があるね(笑)。少しうまくいかないことがあるとすぐ辞めてしまったり。ある子は『自分は次のJ.K.ローリングになる』と言っていたけど、何を取り組むにも失敗や試行錯誤は絶対に通る道だから、そのプロセスを理解して、達成するまで忍耐強くある必要がある。
でも、本来学ぶことは楽しいのよ。
彼らに『新しいことを知ることや、学ぶことは好きでしょう?』と聞くと、大抵『それはそう』と答えるから、達成するまでの過程での学びを味わえるようになってほしいわよね!!」とおっしゃっていました。
とても気づきの多いお話です。
「あぁっ、私に刺さります。」と伝えたら、この絵本も紹介してくれました(笑)
なんでも完璧にこなす女の子と全然完璧じゃない弟。彼女は一度ミスをしてしまったことを機に、弟と一緒に完璧じゃないものを楽しむようになるというストーリー。ぜひ見かけたらご一読を。
「メンタルが不安定な子はいませんか?」
Kay自身の経験や周りのギフテッドの当事者と関わることを通して、
授業のスピードの合わなさや、コミニュケーションのトラブル、完璧主義、感情の激しさ、感覚過敏、同級生との興味分野の違いなどが原因となり、彼らが精神的に病んでしまうことが、一番大きな問題だと私は認識しています。
1校目の訪問時、これについて先生に質問をすると、ある生徒さんは毎週のように不満を口にしたり、以前に希死念慮について話したりしていたそうです。深刻な問題だとおっしゃっていました。
それでも、マインドプラスのような居場所があることは、それがない状況より遥かに心強いことだと思います。似た感覚を持つギフテッドの仲間同士でつながることが、重たい閉塞感や孤独感を和らげる一助になると考えています。
「不登校の生徒さんはどうしていますか?」
中には不登校の生徒もいますが、マインドプラスはオンラインのプラットフォームも提供しているそうです。30分のセッションの後、先生の監督のもと、個人で作業をするそうです(多分、例のGoogle Classroomの教材とかを用いて※以下の記事参照)。
また、オンラインのクラブに関しては、2~10歳の子達が無料で入れるそうです。2歳からというのはすごいですね、ギフテッドは早熟なケースも多いので、需要があると思われます。
学校に通うことができなくても週一回生活リズムを整えるきっかけがあり、少しでも自分の興味ある活動を進められることは、身体的にも精神的にも大きなメリットだと思います。
「女の子の割合が少ないようですが…」
1校目では男の子10人に対し女の子は4人、2校目では男の子7人、女の子2人でした。このことについてマドレーヌさんに尋ねると、「女の子は傾向として学校ではbeautifulyに振る舞うからから本当に少ない。これは一つの問題だと思う。男の子は言動で問題起こしたりしてすぐ見つけやすいんだけどね(笑)」
クラスに馴染むことで楽しく過ごせているのなら何も問題ないと思いますが、もし過剰適応で窮屈な思いをしているのだとすれば、それは解決するべき課題でしょう。
「他の生徒はマインドプラスに入る生徒たちをどう思っていますか?」
マドレーヌさんいわく、生徒の中には『僕は天才だからプログラムに参加しているんだ』と他の生徒に話す子がいるそうなのですが(笑)、
「違う違う、そうじゃない」(曲…?)と諭しているそうです。
「どのくらい詳細に説明するかによるが、シンプルに伝えられるよう先生側が助けている」と言っていました。
これはかなり個人的な意見になってしまいますが、"ギフテッド"という言葉には改善の余地があるとずっと感じています。これに関しては語りたいことが長くなってしまうので、またいつか別の記事で書かせていただこうと思います!
Kayが思いつく他の生徒への説明としては、「自分は少し異なる脳の特性があるんだ。」や「深く探求したい内容があって、それに取り組んでいるんだ。」といったところでしょうか。
「ニュージーランド社会ではギフテッドに対する理解はありますか?」
この質問に関しても、1校目で先生にお伺いしました。
結論としては「まだまだ」です。
授業で取り組んでいる「アートの力」に関連して、みんなで美術館へ訪れる機会があったそうなのですが、案内するスタッフさんが生徒に話し始めたのは「おもちゃ」についてや、数ある美術品の中でも2,3個の作品についてのみ。違うちg… 「そういう子供向けの解説は求めていないのに…」と先生は残念に感じたそうです。
ギフテッドの知的好奇心や理解力について、社会ではまだあまり理解されていないようです。今後Neurodiversityの概念とともに、ニュージーランドでも日本でもギフテッドの理解が広まることを願っています。
教室内の張り紙たち
今まで3か所の教室を訪問させていただきましたが、どこの壁もさまざまなポスターが貼られていました。せっかくなのでその一部をご紹介します。
思考法の種類を学ぶことは、頭の中を整理するのを助けます。
こちらに関してはいつか日本語の翻訳を含めてまとめますので、今しばらくお待ちください!何のデータに基づいた特徴一覧なのかは不明ですが、納得のいくものばかりなのでギフテッドについて理解を深めるには有用かと思われます。
まとめ:訪問で学んだことと私の感じたこと。
日本でギフテッド特性をもつ生徒たちへの教育を考える際、参考にできるかもしれない点をまとめてみました。
授業について。
・クイズ、授業のスピード感
・知識のインプットだけではない、想像力/創造力を養う授業内容
・概念についての理解など抽象度の高いテーマ
・プロジェクト、クラブなどそれぞれの生徒の興味分野を伸ばす学習
・カリキュラムのデジタル化/遠隔の学校や不登校の生徒も参加できる
・才能を伸ばすという教育の側面と、社会性のサポートという福祉の側面の両方がある
環境について。
・日本の教室などの椅子と机が均一に配置された教室とは異なるリラックスした空間
・ヘッドフォン/一人になれるスペースの設置
・うるさくしたり他人に迷惑をかけたりしない限り、ある程度自由に行動して良い、緩い規律
・10人程度の少人数クラス
先生、生徒たちについて。
・高度な知識や独創的な発想を披露しても認められる
・早口、というよりかは話の内容のテンポが早め(理解力が高いため)
・言葉数や表情が少ない子も、動き回る子も、クラスに馴染んでいる印象を受けた
以上に挙げた点だけでなく、肌で感じた子供達の雰囲気、ニュージーランドの空気等を含めて非常に気づきの多い訪問でした。このような貴重な機会を頂けたことに、協力してくださった生徒の皆さん、先生方、マドレーヌさん、学校と私を繋いでくださった酒井様、関係した全ての方に多大なる感謝を。本当にありがとうございました!
今まで3回に渡ってニュージーランドのギフテッド教育に関する記事を連載させていただきました。読者の皆様も、この長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ギフテッドの支援について考える何かしらのヒントになれば幸いです。
もし感想や質問等あれば、お気軽にコメントしてください✨これを書いた高校生が飛んで喜びますので。
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