見出し画像

ニュージーランドのギフテッドプログラムを見学したら素晴らしかったという話(上)

はじめまして、ギフテッド支援の活動をしている高校生Kayと申します!

2024年9月、ニュージンランドにあるギフテッド向けプログラム"Mindplus(マインドプラス)”を見学させていただきました。今回の訪問はプロジェクトリーダーであるマドレーヌさん、『才能はみだっし子の育て方』の著者である酒井由紀子さんのおかげで実現しました。大変お世話になりました。改めて心から感謝申し上げます。

今回の記事では、その訪問の様子と私が感じたことをご紹介します⭐︎
※写真の掲載許可はいただいております。


そもそもMindplusとは?

Mindplusは、Neurodiversity in Educationプロジェクトの一環として実施されているギフテッドの子供達に向けた特別プログラムです。
Mindplus公式サイト

ニュージーランドの小学校と連携し、週1回ギフテッドの子供達に向けたプログラムを提供しています。これらは同じ校舎内の別の教室にて行われ、プログラムに参加した日は、学校の出席扱いとなります。
ニュージーランド全土の小学校が対象で、現在オークランド付近の4校が主催としてプログラムを実施していて、その他全15校が提携校(主催校の先生とオンラインで連携しながら、学校で同じマインドプラスのプログラムを実施)となっています。

Mindplusの目指すもの

はじめに、Mindplusの目的を見てみましょう。


MindPlusのプログラムは、同じような考えを持つ者同士を結びつけ、以下のことを目的としている:

・ギフテッドとしての自分自身と他者への理解を深める。
・自分の長所、才能、興味、情熱を探求し、伸ばす。
・複雑で抽象的な思考を発達させ、それに取り組む
・学習における自主性と自律性を養う
・高度な学習プロセスを開発し、活用する

MindPlus Curriculum Frameworkを参照

私が特に注目したいのはこの点。

・ギフテッドとしての自分自身と他者への理解を深める。

具体的にどんな特性があるのか、他の人とどう違い、それをどう理解したらいいのか、そしてそれらの特性とどう折り合いをつけながら生きていけばいいのか…など、私も当事者として悩んだ時期がありました。
単に「才能を伸ばそう!」という点に偏った英才教育や、一般的な教育では提供できない、「ギフテッド特性それ自体を学べる」機会があることは、自己理解の面で非常に重要だと考えています。肯定的な自己理解という安定した基盤があってはじめて、メンタルも安定して意欲的になれるし、自分なりの学習スタイル、環境の工夫を見つけることができます。

いざ訪問


最初に訪れたのはGrey Lynn School。今回は5箇所のエリアから生徒が集っているそうで、9〜12歳の生徒が全体で14人参加していました。普段はもっと少ないということなのかな。

ニュージーランドの学校は総じて敷地が広い。


木々が見える。都市部でもビルは少なく自然が多い。

マインドプラスでは授業で伸ばすべき要素を4つに分け、それぞれに基づいた授業を提供しています。その4つが以下の通り。
・人格的な向上
・学習のプロセス
・コンセプトについての学び
・才能の発展

これらの要素に対応した今回の時間割はこんな感じ
(以下に日本語訳を記載しています。)

1:人格的な向上 
→感情ー感情の由来 
 絵本『What feelings do when no one's looking?』     
 ギフテッドの視点からのイノベーション

2:学習のプロセス 
→技術チャレンジ
 ー独創性、チームワーク、柔軟な思考、綿密さ

3:コンセプトについての学び
→アートの力
 ー何がアートに価値をもたらすか?
 クオリティにはどのような要素があるか?
 アートを制作し、オークションにかける活動

4:才能の発展 
→プロジェクト、クラブ活動

私が到着した時には、既にクイズが始まっていました。
生徒はモニターを囲うように床に座ったり、椅子に座ったり、立ったりしていて、リラックスした雰囲気。

イスの傾きがその自由さを表している(笑)


モニターにネット上のクイズサイトを表示させ、みんなで答えていく感じでした。
一人の男の子がパソコン(Kayと同じピンクゴールドのMacで少し嬉しかった)を膝の上に置き、答えを打ち込む役割を担当している様子。コンピューター周りが得意そうな子です。
クイズにはノーマルなものから文字の羅列から言葉を探すもの、描かれていくイラストがどの写真のイラストなのかを当てるものなどがありました。

みんなモニターを真剣に見つめ、「わかった!」「これじゃない?あ、違うのか」などとクイズに集中して楽しんでいる様子でした。

クイズの様子を見ていて初っ端から驚かされたのは、その速度です。10人ほどで取り組んでいるというのもありますが、平均1問20秒ほどで、速いものは5秒ほどではい次、というテンポでした。限られた時間の間に大量のクイズを終わらせていたような気がします。ギフテッドの生徒にはこのスピード感がいかに心地よく、重要なものであるかを痛感しました。

1時間目:感情について絵本を通して学ぶ

その後、感情をテーマにした授業へ。
まず先生が『What feelings do when no one's looking?(誰も他の人が見ていない時、感情たちは何してる?)』という絵本を読みました。

全員先生の読み聞かせに耳を傾けている…というわけでもありませんでした(笑)。
ヨーダの柄の服を着たある男の子(以下、ヨーダ少年と呼ぶ)は、テーブルで紙とテープを使った何かを作っていて、しばらくクイズには参加していませんでした。工作が完成すると「できた!見て〜」と他の子に完成品を見せて話していたかと思えば、今度はパズルを始めていました。

物語の内容は、「不安は缶の中に入って暗い隅にいます。」「おもてなしがケーキを焼きます。」「忍耐は美しい庭を持っています。(←Kayのお気に入り)」など、擬人化した感情が一人の時にどんな行動をするかが描かれていて、感情と行動のつながりを表現しています。
読み聞かせ(これも数分)が終わったら、ホワイトボードでの話し合い活動。先生が「感情にはどんな性質があるだろう?」という問いを子供達に投げかけます。
出てきた意見を抜粋すると、「感情は複雑」「反応が感情になることがある」「変化=反応=感情じゃないか」「感情には異なる役割がある」などなど。非常に抽象的な話し合いで、哲学好きの私は目頭を抑えずにはいられなかった…(嘘です泣いてはいません)。
毎回このような一つの「概念」を取り上げ、みんなで考えるそうです。特に今回のテーマである感情は、特に子供たちが自分の感情を客観的に捉えることに役立つだろうと思いました。

絵本の中に「孤独が砂漠を歩く。」という描写があったのですが、それについて先生が触れた時に、一人の男の子が「砂漠は寒くなることもあります。雪だって降るよ。」と発言しました。先生は「うん、そうだね。」と日常茶飯事のように受け流していましたが、それを見た私は彼の知識量に驚かされました。
全体を通してほとんどの子が積極的に手を挙げたり、直接発言をしたりしていたのが印象的でした。私が見学した教室がたまたまそうだった可能性もありますが、一人だけが発言し続けるわけでもなく、誰もが気兼ねなく発言できる雰囲気で、生徒は疎外感を感じることなく過ごせているのではないかなと思いました。

プリントを使ったワークの後、マドレーヌさん(マインドプラスのプロジェクトリーダー)が持ってきた新作ゲーム、「Welcome to My Brain」をプレイ。その詳しい様子はこちらの記事でご紹介しています。ぜひご覧あれ。

2時間目:アート制作

次の単元はアート。
実は、マインドプラスでは毎年1つのコンセプトを設定し、それに基づいて活動を行います。2024は "Power"。
今まで「太陽の力」として物理、神話、さまざまな側面から太陽について作品を作ったりしたそうです↓

太陽の絵は既存の形状に囚われないダイナミックさがあって、かっこいい

そして現在のタームは「アートの力」。私が訪問する前にも、著名な画家の絵を模写する活動などをしていました↓

今回の授業では、各々が作品を描いた後、オークションを再現するようです。
みんなはどんなのを描くのかな…
「僕はこうすることに決めた、origamiのようにするんだ」
と聞こえてくるではないか。日本人アイデンティティを少なからず胸に抱く私にはまたも涙腺崩壊の危機!好きだ!Mac、いや、折り紙少年!ありがとう!
見学者が日本出身だから折り紙を選んだわけでは絶対にないが、その今まで聞いたことがないほど良い発音の"origami"(オrリガー⤴︎ミ)には胸を打たれた。

ある二人の女の子二人は、同じ作品をネットの画像をもとに描いていました。タブレットが一つしかないから同じ絵を描いているのかな、と思いました。鉛筆のみでモノクロに描く作品にワクワク。

ふと教室を見渡すとヨーダ少年は今度はポケモンカードのようなものを並べていて、ひとりゲームを楽しんでいるようだったが、先生が柔らかく「今はそれをやる時間じゃないよね」と話しかけていました。自由。だけどさすがに先生もたまには注意するようです。
「授業になったらすぐ来てくれる生徒もいるけど、彼とかは30分経っても来なかったりするから、『お願いだから来て〜〜〜』という感じでいつも大変です(笑)」とおっしゃっていました。

休み時間

作品紹介の前に休み時間。(ニュージーランド及びオーストラリアでは、ランチタイムの他に、午前中に"Morning Tea"の時間があり、必ずしもそうではないですが軽くお菓子を食べて休憩する習慣があるそうです。)

休み時間が始まるとすぐに全員が校庭に出ていきました。

校庭へ走り出すMac少年

ドッジボールや私の知らないボールを使った遊び、鉄棒やその他遊具で遊んでいました。

3時間目:オークション

休み時間の後、いよいよオークションが始まります。生徒たちは先生が紙で作ったドル札を持って待機。

Kayが一つ疑問に思ったのですが、オークションで自身の作品が評価されることを、子供達は不快に感じないでしょうか。繊細な子は自分の作品が人よりも高く値がついたとが低く値がついたとか、評価を過剰に気にして傷付いたりするかもしれません。オークションをやってみるということ自体はとても楽しそうだったので、現存する有名な作品などを競り、自分たちが制作した作品はみんなで感想を伝え合う、という風に分けた方が無難かもしれない、と思いました。

まぁそこは一旦置いといて、
ブルーのパーカーの男の子が興奮した様子で先生に聞きました。「あれやるんでしょ!?『もうこれ以上ないですか?いいですか?3、2、1、落札!(英語ではGoing once, going twice, sold!!)』」オークションの掛け声が楽しみらしい。
先生が「さあ、みなさん。まず一つ目の作品です。こちらは海を描いた作品でしょうか。抽象的に描かれていて独特な魅力があります…」などと、荘厳まではいかないが、まるで本物のオークショニアのように紹介します。
子供たちは「10,000ドル!」「んー10,100ドル!」などと言いながら競りが行われ、
ブルーパーカー少年と他何人かが声を重ねて「Going once! Goooing twice!! sooold!!!!」と腕を大きく振りながらカウントし、無事作品は売却されました。

続いて例のヨーダ少年。は四角やぐにゃぐにゃとした黒い線のみで描かれたシンプルな絵。(他のこととしてたから描く時間がなかったのではと思ったのはここだけの話。)
"It is my worst job I've ever had. Worst job." と半分ふざけで淡々と語りました。らうまく描きたかったが描けなかったのか、あえて抽象画らしくするための作為だったのかは、私のリスニング力の乏しさのおかげで定かではないが、黒い線のみで形作られたその絵を見て、
「これはロボットじゃない?」
「に見えるよ」
などと観衆は盛り上がっていました。

続いて唯一の立体作品、折り紙!

白い紙で飛行機を作り、その上に何か絵を描き加えていました。「おぉーこれは50,000ドル!」と売却されました。一方で彼が
「300万ドル(日本円約4億)のつもりだったのに…」と落ち込んだ様子を見せると
「誰も300万ドルなんて持ってないよ」と突っ込まれていました。いや確かに素晴らしい作品だけど4億は高いわ。
続いての白T少年はナルト!やはりアニメは国境を越えて人気ですね。何も見ないでこんなに上手なのはすごい。


続いて女の子二人の絵。

隠れてしまっているが、右下の絵と、上右から2番目の絵


「タブレットが一つしかないから同じ絵を描いているのかな」などとKayが思っていたのは浅はかな予想でした。オークションが始まると、Aさんの方が「私の作品が本物です」それに対しBさんが「あなたは盗作した、私の作品こそが本物ですよ!」と寸劇を開始。とても面白いアイデアだなと感じました。
それを落札する立場の男の子たちが「こっちの方が上手いから本物だよ」と指を差しながらあーだこーだと言っていて、AさんとBさんが故意に描画のクオリティを調節したのかは定かでないにせよ、配慮の欠片もない発言をしていたのは少しひやひやしました(苦笑)。自分らの作品を比較されたAさんBさんが傷ついてないといいですが。
こちらも最終的なブルーパーカー少年の楽しい掛け声と共に売却されました。

彼女たちに作品についてインタビューをするまでの勇気が出なかった小心者のKayをお許しください。

お別れ

お礼にハイチュウ(現Hi-chew)を渡すと、みんなご丁寧に目を合わせて「Thank you so much.」と言ってくれた。ヨーダ少年も「サンキュ、自分も東京行ったことあるよ」と教えてくれました。


ハイチュウの列

また、先ほど寸劇を披露したBさんが、以前に描いたという絵を見せてくれました。以下、写真です。

一つ目のクリーチャー


美しい線で形作られ、彼女の高い想像力が存在を与えたその生き物と出会い感動しました。私のどタイプではないか!!
私が「あなたの絵がすごく好きだ」と伝えると、
「ありがとう。声もあるんだよ、こんな風に」と言って、「グゥルルルr…」モンスターズ○ンクに出演していても何ら差し支えないほどリアルな唸り声も披露してくれました。

長くなってしまったので、2校目の訪問やプロジェクトリーダーのマドレーヌさんとのお話などは(中)に記載します!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?