一人ひとりの賜物を生かす学びの場
緑が多く、光がたくさん入る素敵な校舎、清教学園中・高等学校に今回は訪問させていただいた。
「私は受験だけではなくて、生徒たちの賜物を生かして、変化の激しい社会で生きる力を身につけてほしいと考えています」
おだやかな笑顔は崩さずに、そうはっきりと強い眼差しで出口先生は話してくれた。
出口 善明
清教学園中・高等学校教諭 | 特活部、社会科副主任、高校サッカー部顧問
関西英語授業研究会Harvest南大阪支部事務局
Teacher2.0サポートメンバー
学校から社会へのトランジションに向けて、学力の三要素を育てるため、PBLやCLILによる教科融合、質問作りやDictogloss、コンセプトマッピングなど取り入れ、生徒のオーセンティックな学びを重視した授業を展開している。
自分の能力が生かせると思って先生になった
私は将来の夢を定めてステップアップしてきたわけではありません。
博士課程にいくことをやめて就職活動をする際に、自分の能力が最大に生かせると思って教師になりました。
自分が生かせる場所を選択したという感じです。
知識だけでいいのだろうか?
理想をもって教師になったわけではなかったので、ギャップなどは感じませんでしたが、教師として働くようになってから、ずっと学校の在り方にモヤモヤしたものが積もっていました。
難関大学への進学実績も高く評価されていますし、生徒も保護者もそれを望んでいる、それ自体を否定するわけではないのですが、変化が激しい時代に果たしてそれでいいのだろうか?と。
受験における知識詰め込み型だけいいのだろうか?というモヤモヤが積もっていました。
まわりの刺激が自分を変えてくれた
そんな中、2年前に同じ学年団になった先生からお誘いいただき学外の活動に参加しました。今でこそ、たくさん勉強会の情報は入ってきますが、当時の私にはとても新しい体験で。
勉強会に参加すると、いろんな学校の先生が様々な取り組みを発表されていました。それらは、これからを生き抜くために必要な21st Century Skillsを重視した取り組みでした。
他にも、この時期に溝上慎一先生(現桐蔭学園理事長)が授業見学に来てくださったり、学校から「未来のマナビフェス」に参加や、宿泊学習の準備学習を担当させていただいたりと自身にとって刺激が多く、変化を感じることができました。
自分のできることを限られた範囲の中でもやることが大事
勉強会に参加するようになって、学校制度を変えることは難しいけれど、自分のできることを限られた範囲の中でもやることが大事だと考えるようになりました。
そこで、それぞれの環境において、最適な教育効果をあげる方法の設計を行うインストラクショナルデザインを用いた授業デザインをおこなってきました。
モヤモヤ感を引き出して、学ぶ好奇心に
授業は、知識を効率よく吸収させて、それ以外のことにどれだけ時間を割けるかが勝負だと考えています。
いまは高校生を教えていますが、基本的に板書は一切しません。
私が話した内容を生徒たちはノートにまとめます。そして、自分が書いたノートを見ながら2分間でその内容をペアに伝えます。要するにDictoglossを実践しています。それを50分でトレーニングのように2〜3セット行います。それは覚えるだけでなく、書く力や表現力もつけさせるためです。
ノートの取り方も、多重知能理論(Multipul Intelligences)に基づき、評価しています。Dictoglossの活動の際に、自分のノートを見てわかりやすく相手に内容を伝えるには、私が話した内容を頭の中でうまく処理する必要があります。その過程が記憶の定着にもつながり、アウトプットすることで、表現力や論理的思考力も高まります。
単元のはじめと終わりもとても大切にしています。単元の始めにはQFT(Question Formulation Technique)という質問づくりの手法を用いて、グループで質問づくりをしています。①質問の焦点に対して質問をできるだけたくさん出す、②Closed QuestionとOpen Questionに書き換える、③大事な質問3つに絞る、④その理由を述べる、という手順を踏ませます。
単元の終わりは、単元で習った言葉を書き出し、カテゴリー化、重要な語から中心にマッピングしたものでコンセプトマップを作らせ、学びを定着させています。
授業を通して、生徒たちは将来必要な質問力、思考力、創造力、論理性を養います。まさに、21st Century Skillsです。あえて生徒のモヤモヤ感を引き出すことで、それが学ぶ好奇心につながるように授業デザインしています。
常に葛藤しています
どんどん新しいものを取り入れ、必要ないものは削ぎ落とし授業をつくっている先生。
次の目標は?と聞くと、少し黙ってからゆっくりと「常に葛藤しています」という答えが返ってきた。
ニーズに合わせながらもこれからの時代を生き抜く力を育む環境をつくるため、自分にできることをやりきる。それは、決して簡単なことではなく、これからも葛藤しながら先生は授業をつくっていく。
わたしたち以上に学んでいる姿を見せてくれる
先生の授業を見学したあと、一緒に3年間授業を創ってきた生徒さんたちともお話する機会をいただいた。
授業を受けてきたという表現をしたくないのは、生徒さんと話していて先生と生徒さん、お互いに切磋琢磨成長してきたんだと感じたからだ。
どんな力がついたか?大変だったことはないか?色々とお話しさせていただく中で、とても印象に残ったのは、先生がいろいろ助言してくれるのではなくて、みんなが先生の背中を見て成長しているということ。
「わたしたち以上に学んでいる姿を見せてくれるんで、がんばんなきゃ!て気持ちになるんですよね」
そう言い切る姿がすごく格好良い。
先生の誠実な姿勢を見て育つみんなのこれからが楽しみだ。
〜mocciのおまけ〜
生徒さんたちに授業のやり方とか一切関係なく、出口先生を人としてどう感じますか?という直球な質問をしてみた。
そうすると一呼吸も置かずに「先生人気あるんですよ!」と嬉しそうに答えてくれた。
その生徒さんたちをみて、先生が素敵なのはもちろんだけど、そんな風にがんばっている大人をちゃんと見てくれるあなたたちに救われますって泣きそうになったのは秘密。
Written by: mocci ♯学校訪問シリーズ