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なぜ愛知で多種多様な発酵調味料が造られ、文化として根付いたのだろう?

ここ数年発酵が注目されてます。日本だけでなく海外にも。そんな中でも、愛知県はすごく色々な発酵調味料が造られています。それぞれがすごく個性的で美味しい。そして蔵を訪ねるとみなさんすごく魅力的なんです。

一灯のパンフレット 生産者と共に

一灯のパンフレットです。最幸の生産者さん。

最近、いろいろなところで調味料のことを話をする機会がありましたので、どんな発酵調味料があるのかと、それらが造られ続けている理由をまとめてみました。

先ずは多様な発酵調味料の説明を簡単に

◎豆味噌(八丁味噌)

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豆味噌は主に東海三県で造られてます。愛知を中心に、岐阜と三重も愛知寄りの地域です。原材料は主に大豆と塩だけで作り1年から3年かけて熟成されます。色は黒褐色で、味は甘味は少ないですが、辛味の他に酸味や苦味も併せ持った複合的な味わいです。見た目より塩分は一般的な米味噌よりも少ないです。写真は岡崎の「まるや八丁味噌」。大豆と塩だけで仕込み、木桶に石を山高く積んで三年熟成。熟練の石積み職人がいてバランスよく同じ角度に積み上げてます。この仕込みは岡崎の「まるや八丁味噌」と「カクキュー八丁味噌」だけです。この景観は外国の芸術家からも美しいと言われるそうです。豆味噌は煮込んでも美味しく、味噌煮込みうどんやどて煮、味噌カツなど、郷土料理には欠かせない味噌です。

◎たまり醤油

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たまり醤油はもともとは豆味噌を造る時に、上にたまる濃厚で美味しい液体が名前の由来ともいわれてます。材料は豆味噌と同様に主に大豆と塩。1年から3年かけて熟成させてます。濃厚な味わいで、うまみが強く塩分は低めなのが特長です。武豊町にはたまり蔵が建ち並ぶ地区があり、たまり醤油の生産地です。写真は汲みかけです。たまり醤油は他の醤油と比べ、水を少なめに仕込むので、醤油の櫂入れのようにして混ぜたりすることが出来ません。そのために筒を底までさして、そこに上がってきたたまりを回しかける作業をします。下の写真は色の濃い方が五分たまり、薄い方が十水たまりです。大豆に対して半分の水で仕込むのが五分たまり。同量で仕込むのが十水たまりです。

◎白醤油

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白醤油は碧南市で200年ほど前に生まれた醬油です。通常の醤油が大豆1:小麦1の割合で作られるのに対して、主に小麦9:大豆1の割合で仕込み、約3か月で造る色が薄い醤油です。白醤油専門メーカーは碧南市の3社です。上の写真は「ヤマシン醸造」の木桶が並ぶ蔵の様子でちょうど白醤油を木桶から放出しているところです。「日東醸造」には材料に大豆を加えず通常の2倍量の国産小麦を使ったしろたまりという製品があります(写真下)。それから「白だし」は「七福醸造」が白醤油にかつおや昆布や椎茸などのだしを加えて造ったのが始まりです。

◎日本酒

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切り返し

江戸時代、愛知は知多半島を中心に、灘(兵庫)に次ぐ日本酒どころでした。温暖な気候で米作りも盛んで、水質も良かったそうです。そして当時は海上輸送が主流でしたが、灘よりも江戸に近く、最大の難所の紀伊半島を通行しなくてもよいという強みがありました。そして焼き物の産地の常滑があり、そこで作られる甕に入れて輸送されました。木桶を作る職人もいて、日本酒造りに適した環境でした。一昔前までは、越後や能登などから杜氏をはじめとした蔵人が数多く、この地に冬場の酒造りの期間だけ働きに来ておりました。

◎酢

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江戸時代ミツカンの創業者が酒粕を使った粕酢を開発。当時は純米酢が主流でしたが、米が貴重な時代なので高価なものでした。酒造りで余っていた粕を使って酢を造ることで安価で、しかも酸味が軟らかく独特のうま味があるため、評判になりました。江戸前寿司文化の隆盛に貢献したそうです。この粕酢を使うため江戸前寿司の酢飯は赤シャリでした。粕酢は、今でも昔ながらの静置発酵法で造られています。値段は今では手間のかかる粕酢の方が高価になっています。

◎三河みりん

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三河みりんは、主に碧南市で造られています。250年ほど前に「九重味淋」が、酒粕から焼酎を造り(粕取り焼酎)、蒸したもち米と米こうじと合わせて熟成させて造ったのが始まりだと言われてます。みりんも酒粕をうまく使って始まってます。当時は、甘いお酒として女性にも好まれて飲まれていたそうです。九重味淋の資料館に貴重な資料が展示されています。現在は新式の醸造アルコールを使った本みりんと、昔ながらの純米本みりんが造られています。また各社それぞれに個性を活かしたみりんが発売されています。写真はもち米を蒸した後放冷機に入れる作業写真。下はどちらも純米本みりんで、「角谷文治郎商店」の三州三河みりんと、色の黒い方は「杉浦味淋」の3年熟成みりんです。

そして、なぜ愛知に多種多様な発酵調味料が造られてきたのか。その理由を調べてみました。

温暖な気候で平野が広がり、米や麦や大豆などの農産物の産地であった。

西尾市吉良町の饗庭塩(忠臣蔵の敵方吉良上野介で有名。塩の利権が赤穂との争いの元であった)など、三河や知多の沿岸部で塩の生産が行われていた。

知多半島を中心に日本酒の産地であった。そのことから酒粕を二次加工する技術が生まれ、酢やみりんの文化が広がった。

良質な水が確保できたこと。明治用水や愛知用水など全国でも早い段階で用水整備が進んだこと。

木桶を作る職人がいたこと。むかしはほとんどが木製だったため、その水を漏らさない桶の技術が、船や用水の建造にもつながった。

海運業が栄え、港や運河の整備が進んだ。

御三家の一つである尾張徳川家の殿様文化と、三河の商人文化や農業文化が相まって安定した豊かな土地であった。そういった基盤もあり、仕込みに3年かかる八丁味噌も作り続けられている。


以上のようなことが相まって多種多様な発酵文化が根付いたと言われています。愛知の郷土料理は、味噌カツや味噌煮込みうどんなど豆味噌を使った濃厚なイメージがあります。刺身を食べるのも濃いたまり醤油。その一方できしめんやうどんのつゆには白醤油やみりんを合わせて使ってます。料理によって調味料を使い分けて、こってりだけではなくあっさりした料理もあります。

また伝統的な造り方をしている蔵であっても、それぞれ味わいが違うのが面白いです。日本酒で考えてもらうとわかりやすいと思いますが、みりんも豆味噌や白醤油、たまり醤油も蔵によって味が違うんです。蔵に住み着いている菌や、こだわりや造り方の工夫も違うから当然ですよね。例えば「白醤油」といった普通名詞だけでなく、「日東醸造しろたまり」といった固有名詞で考えると個性が際立ち、使い方もさらに多様化していきます。蔵に伺って仲良くなるにつれて数も増えていき、一灯では白醤油は3種類、みりんは4種類、豆味噌は4種類、酢は2種類、たまり醤油は2種類使い分けてます。

それぞれにおいて、またあらためてその魅力を深堀して書きたいと思います。




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