賃上げのための、もう一つの源泉
賃上げのための源泉をどうするか？については、二つくらいしかないと思っていて、一つは先に述べたように価格転嫁をすること。
そしてもう一つは、役員報酬の労働分配率を見直すくらいしか、ぼくには思いつかない。こちらは事業主にとって、ある意味「不都合な真実」だろうけれど。
複数店舗やそれなりの規模のお店は求人誌に掲載しているところも多いと思うけれど、応募すらろくにないような求人誌に月何万、何十万円も支払っているくらいなら、これも賃上げにまわした方がいい気がするな。
他にも削れるところがあればもちろん削るべきだけれど、原価を落とせば商品の魅力も下がるだろうし、このご時世、多くのお店はその他の販管費も含め、すでに可能な限り切り詰められていると思う。だとすると、大抵は節税のために役員報酬を高く設定しているはずなので、本来 ”会社の利益” であるその分を賃上げの分配にまわすくらいしかない。
労働分配率の人件費には役員報酬が含まれる。ぼくはこれが肝所だと思っていて、小規模企業（特に零細といった事業所）の場合、役員報酬の占める割合がめっちゃ多いはずだと思うけれど、それも考慮されているのかな。
役員報酬を高く設定してあるのが ”節税のため” であるなら、その報酬の多くは本来、会社にある利益を合法的に個人所得へ移し換えたものとも取れる。
前回、「何が変わったかといえば、適正価格が変わったと認識すべき」と述べたけれど、もう一つ認識しないといけないのは「賃金の相場が変わった」ということ。
適正価格に転嫁もできず（できたとしても限界がある）、かといって事業主が「役員報酬 = 社長給料＝自分の給料」と思い込み、そこから賃上げに分配しないのであれば、もう考えられることは従業員の給料をそのままにするか（これだと実質、可処分所得は減額していく）、長時間労働をしてもらう以外にない。
しかし、これも ”ふわっとした精神論を修業らしく語った” ところで人材確保は困難だろうし、何より今や国（法律）がそれを看過することもない。
そう考えると役員報酬から分配する気がないのであれば、もう賃上げ分を捻出するのは不可能だと思うので、やはり雇用は諦めるしかないのが現実だと思う。
そうであれば雇用は諦め、自分ひとりなり夫婦だけでお店や事業をまわす、いわゆる ”ひとり親方” の仕組みに今からシフトしていった方が建設的な気がする。
つまるところ、どれだけ考えても経営は「売上100%をどう分配するか」でしかないのだから、賃上げの方策についてはこういった結論に帰結する。
希望的観測を抱いたところで、事業主に選択肢はいくつもないと思っている。
しかし本当に深刻な問題は、こちらだと思う。
「例えば、現行制度で「壁」となっている年収106万円では労使の負担割合を1対9とし、年収が上がるごとに2対8、3対7とし、一定水準で本来の5対5に戻す仕組みを想定する」
少し前に「正気か、厚生労働省」という話を書いたけれど、「正気か？」や迷走どころか、もう厚労省の施策は狂気の沙汰としか思えなくなってきた。
それでもと、これまで賃上げする方法を消去法で述べてきたつもりだけれど、そもそも中小零細企業が賃上げをなかなかできない一番の原因は、厚労省のせいだと思っているんだけどな。
これじゃあ企業努力をしてもキリがないし、本当に中小零細企業を潰そうとしているとしか思えないんだけれど。
これについては、次回にしよう。
つづく
ここから少し余談を。
このnoteは、もともと独立した元スタッフやこれからお店を始めようとされている若い人たちの目に触れ、少しでも参考になればと思い書いていたけれど、「あい」さんという経営者の方が以下のようにご紹介してくださった。
「あい」さんは、先代である義父の会社を継がれた方で、note上で知り合った「そこらへんの経営者」さん同様、お会いしたことがなければ何の会社をされているのかも、ぼくは存じ上げていない。けれど、ぼくの駄文がこうして若い人（だと思う）に何かしらのお役に立っているのなら、とても幸いに思う。
おそらくぼくよりも先輩経営者であられると想像する先代の教えについても「義父と言っていることがほぼ同じなので」と綴られていて、恐縮至極だけれど嬉しかった。
また役員報酬についての考え方も同じようなので、僭越ながらそういった先代社長なら納税についても、きっとぼくと同じように考えられていると思う。
「あい」さん、ありがとうございました。
2代目ということで、ぼくには知り得ない大変さ、ご苦労もあるかと思いますが、今後も頑張ってください。