卵が先か鶏が先か
今回の自民党総裁選では、小泉さんが労働市場改革の本丸として解雇規制の見直しを声高に述べ、河野さんも解雇時に金銭補償をするルールを加え、それに続いた。
おぉ、タブーと思われていたところに手を入れるんか!?と思っていたところ、「それでは企業が自由にリストラできるようになる」といった批判が相次ぎ、日和ってしまい早々にトーンダウンした。
若い世代はともかく、そりゃ終身雇用を前提としてきた世代や住宅ローンが残っている人、まだ子どもが成人していない人たちなどが安定した会社にしがみつきたいと考えるのは当然だし、批判するのも理解できる。
基本的には変化を望まない人の方が多い国民性だと思うし、「世界でもっとも成功した社会主義国家」と揶揄されるような環境にいれば、妙な平等意識も醸成される。けれど現実としてこの国は、もう高度成長期を引きずっていた時代もとっくに終わっているのに、まったく成長できずにいる。
また、これまでなら円安であれば株価は上がり、金利を抑えればゾンビ企業を延命させ、先に述べたように国債をいくら発行しても政府・日銀の利払いも膨らませずに済んだ。こうして政府にもゾンビ企業にとっても、甘くゆるい環境を享受し続けることができた。これまでは。
ところが今の日本には、もうそんな余裕などおそらくない。
と思っているし、これは事実だと思うけれど、解雇規制の見直しを政策の一丁目一番地にした小泉さんや河野さんが批判され、総裁選で失速したのは当然の結果だなぁ。明らかに戦略ミスだと思うし、彼らにこれを吹き込んだ取り巻きは誰なんだろうね。
ぼく自身は住宅ローンもないし、どこかに雇用されているわけでもないので保身から「解雇規制の見直しなんて間違っている」とも思わなければ、そういった流れになった方が経済のためには良いだろうな、とは思っている。
けれど、この政策に拍手を送り支持をしている人というのは、ぼくの知る限り、ご自身が役員など高い待遇で大企業をわたり歩くことのできるキラキラした人や、あとはこういった声の大きいインフルエンサーの言葉を真に受けた意識高いだ系の人たちのように感じる。
でも、実際に個人で一流企業をわたり歩けるような能力の高い人って、かなり少数派だと思うんだな。それに、現実的には国民の大半が中小零細企業に勤めている人たちなんだから。
個人的には雇用の流動化はあった方が良いと思うけれど、順序が違ったのではないですか、小泉さん、河野さん。
卵が先か鶏が先か的な話だけれど、雇用を流動化させることで賃金が上がるのではなく、賃金が上がるから(賃金の高い事業所が多いから)雇用が流動化するんじゃないのかな。
そもそも転職によってお給料が劇的に上がる事業所があるなら、政策に頼らず放っておいても雇用の流動性は上がると思うけれど。
しかし日本は99.7%を中小企業が占め、零細企業や個人事業所を加えるとほぼ中小零細企業という現実がある。ここの賃金が劇的に上がらないことには、ポジティブな雇用の流動化など起きないだろうし、それでも起きるとしたらその時は倒産や廃業といったネガティブな原因による結果的な転職でしかないと思うんだな。
ま、そうなりそうだし、政府や日銀はそれを容認しているのだろうと思うけれど。
つづく