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労働分配率のカラクリ

石破首相は経済音痴と揶揄されるけれど、物価高対策について「労働分配率を上げて賃金を上げることが一番即効性がある」と述べられていて、これはその通りだと思う。

賃上げの可能性を考えてみる

石破首相もこう述べられているので、賃上げについて労働分配率から考えてみる。

”労働分配率” と見聞きすると「また小難しい面倒そうな指標が出てきた」と感じる人もおられるかもしれないけれど、なんてことはない。
計算式は、これ。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100

なぜか ”付加価値” なんて抽象的な言葉が使われるからわかりにくい印象を受けるけれど、これもなんてことはない ”粗利” のこと(付加価値 = 粗利)。
つまり、労働分配率は企業(事業所やお店)が生み出した粗利に占める人件費の割合のことになる。

最初の店を始め、まだ経営の勉強らしい勉強もしていなかった頃、労働分配率なんて指標も知らなかったけれど、当時からぼくはスタッフによくこんな話をしていた。

「他所のお店が6人でやることを、うちは3人でやろう。他所のお店が8時間かかることは、うちは4時間でやろう」

「10人で働いているお店と、100人で働いているお店があったとして、どちらも同じ年商だったとしたら、どっちのお店の方が給料高いと思う?」

労働分配率という言葉を使わないだけで、本質的には ”生産性” を意識した同義だったと思っている。

こういった課題と向き合う際、効率化や合理化という考えを避けて通れないと思うけれど、”尊い職人仕事” といったイメージを強く持つ人からすると対極に感じるためか、この効率化、合理化という言葉自体に気色ばむパン職人さんもおられる。
けれどこれを考えないことには労働環境改善もままならなければ、きっとコンプライアンス遵守もできない。
(中略)
ぼくにとって作り方や工程などの変更、機器を使用するかしないかの判断は、それまでのクオリティ以上のものにできるかどうか、それだけだった。
その上で労働時間短縮などに繋がるのであれば、本来の作り方を変えることや工程をショートカットすること、設備機器や道具をどんどん導入することをぼくはまったく厭わなかった。

職人仕事と効率化


大企業を中心に高い水準で賃上げをしたにもかかわらず、この労働分配率が38.1%と過去最低だった(2023年度)。また中小企業も同様に直近で70.7%と前年同期よりも低水準となっている(財務省が発表した法人企業統計)。
賃上げによって人件費は増加したにもかかわらず、それ以上に経常利益が伸びたことが労働分配率の低下につながった。

労働分配率が低いということは、賃金を上げる余力があることを意味する。

これが石破首相の発言や、先日話題になった経済同友会代表幹事、新浪さんの厳しい発言の根拠になっているのだと思う。

新浪さんは最低賃金の全国平均1500円への引き上げについて、こう述べられている。

「上がらないと駄目で、それを払わない経営者は失格だ」

「できない企業は退出し、(労働者が)払える企業に移る方が人々の生活(の質)も上がる」

また、従業員に賃金を支払えなくなる中小企業については、

「合従連衡すればいい」

まぁ身も蓋もないバッサリな物言いだけれど、これって日銀(≒政府)の考えと同じだと思うんだな。

言葉こそ選んで話されているけれど、要するに「賃上げや利上げについて来れない中小企業がデフレを発生させている。だからそういった企業の労働者は生産性の高い企業に移るべきであり、それが経済全体の生産性を向上させることになる」と植田総裁は述べられている。つまり、率直に言えば「ゾンビ企業は退場してもらい(潰れ)、雇用が流動化した方がいい」ということ。

マスゴミの一つ覚え

ところが大企業と比べて中小企業は、すでに労働分配率が高いというデータがある。
次のグラフは、中小企業白書の「企業規模別の労働分配率の推移(2021年度実績)」

出典:2023年版中小企業白書 第3節 生産性の現況(経済産業省 中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/shokibo/b1_3_3.html

これは2021年度分までになるけれど、大企業で52.4%、中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)で78.8%。
資本金1千万円未満の小規模企業だと91.0%にもなる。

これについて「(中小企業は)限られた収益から、すでに高い比率で人件費を捻出しており、賃上げを続けるには収益自体をもっと高めなければならない」と述べられている大学教授もおられる。
さすが大学教授、「収益自体をもっと高めなければならない」というのは同感。
しかし、労働分配率の人件費には役員報酬が含まれる。ぼくはこれが肝所だと思っていて、小規模企業(特に零細といった事業所)の場合、役員報酬の占める割合がめっちゃ多いはずだと思うけれど、それも考慮されているのかな。

意図的に赤字にする会社にはこういった カラクリがある。

節税に夢中な事業所に、賃上げはできるのかな

また役員報酬を得ることができるのは、オーナー・シェフといった経営者、代表に限ったものでなく、夫婦で働いていれば奥さまも役員として報酬を得ているだろうし、場合によっては他にも身内が役員となっているケースもある。
(中略)
役員報酬を高く設定してあるのが ”節税のため” であるなら、その報酬の多くは本来、会社にある利益を合法的に個人所得へ移し換えたものとも取れる。

役員報酬をどう捉えるか

小規模企業の労働分配率は91.0%と確かにめっちゃ高いけれど、従業員への分配率だけで計算するとかなり下がり、大企業とあまり変わらないという話もある。

つまり、節税対策のため恣意的に役員報酬や役員の人数を増やせば、労働分配率は当然高く見えるようになる。

つづく



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