労働分配率のカラクリ
石破首相もこう述べられているので、賃上げについて労働分配率から考えてみる。
”労働分配率” と見聞きすると「また小難しい面倒そうな指標が出てきた」と感じる人もおられるかもしれないけれど、なんてことはない。
計算式は、これ。
労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100
なぜか ”付加価値” なんて抽象的な言葉が使われるからわかりにくい印象を受けるけれど、これもなんてことはない ”粗利” のこと(付加価値 = 粗利)。
つまり、労働分配率は企業(事業所やお店)が生み出した粗利に占める人件費の割合のことになる。
最初の店を始め、まだ経営の勉強らしい勉強もしていなかった頃、労働分配率なんて指標も知らなかったけれど、当時からぼくはスタッフによくこんな話をしていた。
「他所のお店が6人でやることを、うちは3人でやろう。他所のお店が8時間かかることは、うちは4時間でやろう」
「10人で働いているお店と、100人で働いているお店があったとして、どちらも同じ年商だったとしたら、どっちのお店の方が給料高いと思う?」
労働分配率という言葉を使わないだけで、本質的には ”生産性” を意識した同義だったと思っている。
大企業を中心に高い水準で賃上げをしたにもかかわらず、この労働分配率が38.1%と過去最低だった(2023年度)。また中小企業も同様に直近で70.7%と前年同期よりも低水準となっている(財務省が発表した法人企業統計)。
賃上げによって人件費は増加したにもかかわらず、それ以上に経常利益が伸びたことが労働分配率の低下につながった。
労働分配率が低いということは、賃金を上げる余力があることを意味する。
これが石破首相の発言や、先日話題になった経済同友会代表幹事、新浪さんの厳しい発言の根拠になっているのだと思う。
新浪さんは最低賃金の全国平均1500円への引き上げについて、こう述べられている。
「上がらないと駄目で、それを払わない経営者は失格だ」
「できない企業は退出し、(労働者が)払える企業に移る方が人々の生活(の質)も上がる」
また、従業員に賃金を支払えなくなる中小企業については、
「合従連衡すればいい」
まぁ身も蓋もないバッサリな物言いだけれど、これって日銀(≒政府)の考えと同じだと思うんだな。
ところが大企業と比べて中小企業は、すでに労働分配率が高いというデータがある。
次のグラフは、中小企業白書の「企業規模別の労働分配率の推移(2021年度実績)」
これは2021年度分までになるけれど、大企業で52.4%、中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)で78.8%。
資本金1千万円未満の小規模企業だと91.0%にもなる。
これについて「(中小企業は)限られた収益から、すでに高い比率で人件費を捻出しており、賃上げを続けるには収益自体をもっと高めなければならない」と述べられている大学教授もおられる。
さすが大学教授、「収益自体をもっと高めなければならない」というのは同感。
しかし、労働分配率の人件費には役員報酬が含まれる。ぼくはこれが肝所だと思っていて、小規模企業(特に零細といった事業所)の場合、役員報酬の占める割合がめっちゃ多いはずだと思うけれど、それも考慮されているのかな。
小規模企業の労働分配率は91.0%と確かにめっちゃ高いけれど、従業員への分配率だけで計算するとかなり下がり、大企業とあまり変わらないという話もある。
つまり、節税対策のため恣意的に役員報酬や役員の人数を増やせば、労働分配率は当然高く見えるようになる。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?