薬膳cafe五花 1月:なつめと鶏肉の生姜粥 #1
薬膳カフェのカウンターでオーダーしたお粥を待っている。
このお店に来るのは初めてだ。
以前から気になってはいたけれど、薬膳と聞いてなんとなくハードルが高かった。
アラフォーにさしかかり、最近は自然に健康に目を向けるようになってきた。
少し無茶をすると疲れが残るなぁと感じる。
食欲がなかったり、何かをする気力が湧かないことも気がかりだ。
薬膳…ちょっと興味があるかも。
店舗の外の看板には、読みやすいチョークの字で、おすすめお粥セット、薬膳スパイスカレー、季節のプレートといったメニューが並んでいた。
今日は土曜日で休日なので、気分転換に図書館に行った帰りに思い切って寄ってみたのだ。
「いらっしゃいませ」
感じの良い女性店員が、カウンターへ案内してくれた。ランチタイムぎりぎりの時間に来たせいか、客は自分1人だ。
こじんまりした店内には、5人横並び出来るカウンターと2人掛けのテーブル席が2つ。
カウンターの隅には、一輪挿しに紫色のスイートピーが飾られている。
「気になるメニューはありますか?」
メニュー表に目を落としていると、店員さんが聞いてきた。
「うーん。なんか毎日寒いし疲れてしまって。お腹はぐーっと鳴るんだけど食欲はあんまりないんですよねぇ…」
私は首に巻いていたマフラーを取りながらついそんな言葉を漏らしてしまった。
ここのところ、仕事も忙しく疲れていた。
「毎日寒いですよねぇ…じゃあ、この、おすすめお粥セットの鶏肉となつめの生姜粥なんかどうですか?温まりますよ」
温まる…という言葉に惹かれて、「じゃあ…」とオーダーした。
テイクアウトも承ります
『薬膳cafe 五花』
お店のポップが目についた。
「ごか、と読むんですか?」
待っている間に聞いてみた。
「いつか、と読むんですよ」
物腰柔らかく言うと店員さんはにっこり微笑んだ。
落ち着いたブラウンの髪を後ろで結び、黒いターバン。白いシャツに黒いエプロンドレスも似合っている。もしかしたら女店主さんなのかも。
「いつか…」
思わずつぶやくと微笑みながら
「たいした意味はないんです。古代中国の五行学説の五…とお花が好きだから花…と。なんとなく響きも可愛いから。あはは」
五行学説…はよくわからないけどかわいい名前だな、と思った。
「お待たせしました」
お盆に載ってテーブルに届いた『なつめと鶏肉の生姜粥』。
お粥からは白い湯気がたっている。
「熱いですから、気をつけて。鶏ガラスープで炊いています。お塩と黒すりごまはお好みでかけてどうぞ」
あつあつをレンゲですくい、ふぅーっと冷ましながら食べる。
ほんのり鶏の出汁と生姜の風味が効いていて、優しく滋味深い。
「はぁ〜 あたたまりますね〜」
思わず声が出た。鶏もも肉はうまみと弾力がなつめはとろりと柔らかく甘い。
「中国では1にちに3個なつめを食べると老いないということわざがあるんですって」
カウンターの向こうから教えてくれた。
「へぇ。サムゲタンに入ってるイメージしかなかったです」
なるべく放っておいて欲しいほうだが、店主のゆっくりなテンポの語りは不思議と不快に感じない。
「黒すりごまも薬膳的にもおすすめ食材ですよ」
パラパラとかけたタイミングで教えてくれた。
「へぇ〜 それはドバッとかけなきゃ」
と言ったらアハハハと笑っている。
あとは適度に放っておいてくれて、ゆっくり粥を味わい、完食した。
席を立ち会計をしていると
「素敵なマフラーですねぇ。冬は三首…手首、足首、首を温めることで寒さの邪気、寒邪から身を守ると言われていますよ。背中の上の方も守るといいです」
と教えてくれた。
「ありがとうございます。このマフラー気に入っているんです。かんじゃ…ですね?気をつけます。あ、お粥も美味しかったです。」
「そう言っていただけると嬉しいです。良かったらまたお越しください」
「はーい、ご丁寧に。また来ますね」
と軽くおじぎをしてお店を出た。
外に出るとキリっと冷え込んだ空気に包まれた
淡いグリーンのニットマフラーを隙間のないようにアウターにきゅっと押し込んで歩き出す。
身も心もほっこり温まって、自分の口角が自然に少しあがっていることに気がついた。