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【日録】2025.1.22 森にて
平日の午前は森へ行くのが日課になっている。家から歩いて20分ほどの場所に森が2つあって、高速道路を挟んでそれぞれの森が繋がっている。
森の入口には蝋梅の樹がある。今年は特に暖冬で昨年よりも開花が早いとご老人が教えてくれた。蝋梅の花は甘くていい香りがする。この香りを嗅ぐのが楽しみで、毎回必ず立ち寄る。花が黄色というところがまたいい。私は黄色い花が好きだ。たんぽぽ、キンセンカ、菜の花、ひまわり、カタバミ。そういや昔、私が好きだと言ったら恋人が黄色のバラの花束をくれたことがあった。黄色のバラの花言葉は「嫉妬」。本人は知らなかったと思うけれど。
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娘が学校へ、夫が会社へ行ったあと、私は森へ散歩に行く。散歩に飽きたら図書館へ向かう。散歩も読書も特に時間は決めていない。その日の気分次第だ。30分程度のときもあれば、2、3時間滞在するときもある。日課とはいえども、天候や体調が思わしくなければ無理には行かない。
近くに線路があって電車が通ったり、土地柄、飛行機やヘリコプターが頻繁に近距離で通過したり、高速道路もあるので、森にいても人工的な騒音がかなりある。そんななかでも静寂な時間は訪れる。目を閉じて、鳥の鳴く声や、川の流れる音、風で揺れる葉っぱの音に耳を澄ませると心が凪ぐ。冬の日差しと冷たい風を肌に受け、蝋梅の香りを楽しみながら枯れ葉を踏みしめて歩く。スマホをリュックに仕舞って、視線を限りなく遠くに移すことで、五感が洗練されていく感じがする。
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森はいい。招きも拒みもせず、ただそこにあるだけ。人間なんて別に特別な存在ではなく、私も自然の一部なんだということを痛感する。森だけではなく、空や山や星を見てもそう感じる。自分よりとてつもなく大きいものの前では無力になる。抗っても仕方がないといい意味で諦めがつく。もう十分だという心持ちになる。
細々とした現実に溺れそうになったら、森に来ればいいのだ。日常の些細な苛立ちや焦りが実にくだらないと感じたり、未来や心配事もなんとかなるんじゃないかと思えてくる。一見すると現実逃避なのかもしれないが、後ろ向きな思考ではないからいい。
夫と同居し始めた当初は環境の変化でストレスが多く、少しでも夫と口論になると、自分の選択が間違っていたのではと後悔することもあった。同居から3か月、働き方を変え自由な時間が増えた。夫と復縁して同居したおかげ。さらに言えば、復縁を望んでくれた娘のおかげだ。時間のゆとりだけではなく、心のゆとりがあることで家族への感謝が生まれた。
コスパ・タイパを追求するなら、人の話よりも自然の音を聞くほうがずっといい。靴を履いて外に出て、ただ歩くだけ。リフレッシュにもなるし、運動にもなって、デジタルデトックスにもなるよ。無益に思えるようなことが大切なのかもしれないと思い出させてくれるよ。みなさん、ぜひ森へ行きましょう。花粉や虫がたくさん飛んでこないうちにね。
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