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義理ハハ事件簿〜花にジャージャー事件〜

夫のお母さんこと、義理ハハは隣に住んでいる。

隣と言っても、隣りにあるマンションの一番上の階に住んでいて、狭小住宅の我が家の遥か頭上に義理ハハは住んでいる。

とはいえやはりすぐ横の隣なので、何かとお世話をやくのが三男家、我が家の役目となっている。

義理ハハの住むマンションは、高齢者専用マンションで、どの部屋もバリアフリーで、非常用の警備会社への直通通信システムなどが備わっている。

暮らしやすいこじんまりとした作りで、利便性のいい場所にあるため、高齢者の申込みが多く、入居順番待ちなのだという。なかなか部屋が借りにくい高齢者にとっては嬉しい住居らしい。

穏やかにみなさん暮らしてはいるのだけど、たまに問題を起こすのが非常用の警備会社への直通通信システムだ。倒れた時に、電話するよりも簡単に緊急ボタンを押せばアラートが鳴って警備会社が駆けつけるこのシステムは、一人暮らしのお年寄りを見張る機能がついている。

部屋の鍵がビジネスホテルのキーのように、ドアをあけて中に入って、差し込むと電気が使えるようになっている。これで、鍵が差し込まれていると、住んでいる人が在宅と認識するシステムだ。

そして在宅している上で、水も電気もガスも使っていない時間が続くと、生存確認に警備会社が来る。また在宅している時に、水やガスが出っぱなしになっている時も、ボタンを押さなくての自動でアラートがなることになっている。確認に警備会社がやって来ることになっている。

マンションに新しく入った住民の方は、だいたい一度は間違えてアラートを鳴らして警備会社を呼んでしまう。他のボタンと間違えて緊急ボタンを押してしまったとか、トイレのタンクのおもりがひっかかり水が流れっぱなしになるとか。

マンションが建ってすぐはこれがあまりにも多く、そのたびに非常アラート音が聞こえ、慌てた住人の方々が、我が家に駆け込んで来た。我が家にきたところで何もできないのだけど、自分のところの住民より若いご近所さんに助けてもらおうと思ってのことらしい。やくたたずで申し訳ないんだが。

このマンションができてから10年以上経ったけど、アラートが鳴って、住民が倒れていたとか亡くなっていたとか、そういうことは今のところ1回もない。基本、間違いや誤作動ばかりで、至って平和に過ごしている。隣のマンションの住民の方々には、我が家ができることは何もないとお伝えしており、最近はアラートを止めてくれだの、助けて欲しいだのと来る方もいなくなりつつある。

さて、このアラートを鳴らすのが一番多かったのが502号室の方で、その次が、義理ハハだ。

502号室の方は、住んでいる数年の間にボケが進行し、最後は毎日のように自分でボタンを押して警備会社の方を呼びつけていた。それを受けて、その後は施設に入ることになったと聞いた。

502号室のボケてアラートをがんがん鳴らすのも迷惑なのだけど、もっと迷惑なのは義理ハハだ。彼女は決してボケていないからだ。

一番最初にアラートがなった時は、元気のない花に水をあげるということで、シンクに花の鉢を置き、水を流しっぱなしにしていた。在宅で尋常じゃない水が流しっぱなしになっているということでアラートが鳴り、警備会社がバイクで飛んできた。私もアラートの部屋番号を聞きつけ、合鍵を持っていることもあり、警備の方と部屋に一緒にあがっていったのだが、在宅のはずの彼女はおらず(鍵がさしっぱなし)、キッチンのシンクに花の鉢があり、その上からジャージャーと水が出ていた。

シンクに蓋をしていなかったので、ただただ水がずっとジャージャーと流れていた。蛇口をしめた時に気がついたのだが、それは全開になっていた。

鍵を置きっぱなしのだし、これは近所に出ているのだろうと、私は警備会社の人と義理ハハの帰宅を待った。警備会社の方は、住人の無事を確認しないと帰れないという規定なんだとか、なぜ鉢に水をジャージャーしていたのでしょうねとか、ここの住人はアラート鳴らすよねぇとか、暇つぶしに話していたら、彼女が帰宅した。

私らを見るなり

「あらお客様?」

と、のんきな一言。

オイコラと切れそうになりながら、一連のいきさつを話した。無事を確認した警備会社の方は書類にサインをもらって帰って行った。

「元気のない鉢にお水をあげてて、そのままでかけちゃただけよ」と悪びれない彼女。

出しっぱなしにして忘れてでかけちゃったのかと尋ねたら、首を振った。

「ジャージャーって、流水かけたら元気になるかと思ったのよ。たくさんね。ジャージャーって」

そんなわけないでしょ。流水って!!!!

警備会社も来るし、流水なんておかしいし、そもそも元気ないのは鉢に根がぎっしりで植え替えも何もしていないからだし、水もったいないし、意味わからないし・・・

怒りを抑えながらつらつらと話したら、彼女はゴメンネと謝って、もうしないと言った。

義理ハハのいいところは、悪いことはさっさと認めて謝る素直さだ。

そして、

義理ハハの悪いところは、それをすぐに忘れて、同じことを繰り返すことだ。

この花にジャージャー事件は同じ内容でもう1度起こる。前に言ったよね?と話したら、「ああ、意味ないって言われたわねぇ」と思い出した。

そして、彼女はゴメンネと謝って、もうしないと言った。

再放送か!ってくらいの再現性が恐ろしかった。



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