ストック王
82歳一人暮らしの実チチ。母がいた時は生活用品も食料品も買い物は全てを母に任せていたけれど、今は自分でやるしかない。杖をついているので、かさばる荷物や重いものを持って歩けないので、食料品や日用品を日々ちょっとずつ買っている。
コロナ禍で一時トイレットペーパーやティッシュペーパーがスーパーの店頭から消えた時は、どうしていいかわからず戸惑い、毎日そのことばかりを話していた。
母が去ってまだ半年も経たないうちだったので、彼女が買っていたストックもまだあり、大丈夫なんじゃないかと言ったら、質問された。
「トイレットペーパーは月にどれくらい使うものなのだろうか?」
案外そんなことは考えてもみなかったことにふと気がつく。なくなったら買う、少なくなったら買うという生活をしていて、どのくらいで無くなるという意識はなかった。
他にも「アルミホイルが残り少ないのだけど、足りるかな?」と聞かれたことがある。
見ると、アルミホイルの巻きが確かに薄くはなっているとは思ったけど、残りがどのくらいなんてわかりゃしない。
介護ヘルパーさんがお魚を焼いてくれる時にグリルの中にアルミホイルを敷いてくれるそうなのだが、「あと何回分あるかわかる?」と聞かれても、さっぱりわからない。「2〜3回は持つんじゃないかな」と大雑把に返答すると、「じゃあ、今日買っておこう」となった。
彼と買い物をするようになってわかったこと。彼はストック王だ。
なくなってから買うという私とは違い、なくなる前に買っておくのが普通。老人だから、いつでも気軽に買い物に行けないというのもあるし、何より本人の慎重で生真面目な性格も作用している。
コロナ禍でペーパー不足の心配にあってからは、特にペーパー類は特に多めにストックをしている。第2波がきた時にまた不足する可能性もあるとか、老人だから急にいまひとつ動けなくなるとか、そういうことにも備えなければならない、とのことだ。
飲み薬を飲み忘れたとか、電話で聞こうと思っていたことが思い出せないとか、なんでも会話の中身がアレだとかコレだとかで何がなんだかわかりづらいなどなど・・・高齢者らしい物忘れはちょいちょいあるのだけど、このストックに関してはかなり冴えている。
そんなわけで、多めに買ったティッシュペーパーはしまうところがなく、使っていない母の部屋のクローゼットに収納することとなった。先日、収納したばかりなのに、またティッシュを買うというから、クローゼットの中にしまい込んだティッシュ5箱の存在を忘れてしまったか、やはり老人だなとか思っていたら、
「あのティッシュは、まだあまり売ってない時に、高めのものを買ったから、いざという時にとっておいて、普段のやつはもっと安いのが欲しいんだよ」
とのことだった。ストックは忘れていない。そして使わないストックもし始めた。
さすがストック王だな。
なくなったら買う派の娘とは、あまり似てないようで。