ラファエル・サバチニの歴史夜話
サバチニ歴史夜話は「歴史実話を極力創作要素を排して短編小説形式で描く」をコンセプトにしたシリーズ。とりあえず収録作品の概要だけ書き出しておきます。
The Historical Nights' Entertainment, 1st Series(1917年刊行)
I. THE NIGHT OF HOLYROOD〜The Murder of David Rizzio
ホリールード宮殿の夜 ~ダヴィッド・リッチオ殺害
スコットランド1566年、メアリー・ステュアートの秘書ダヴィッド・リッチオ殺害事件
II. THE NIGHT OF KIRK O' FIELD〜The Murder of Darnley
カーク・オ・フィールド館の夜 ~ダーンリー卿殺害
スコットランド1567年、メアリー・ステュアートの二番目の夫ヘンリー・ステュアート殺害事件
III. THE NIGHT OF BETRAYAL〜Antonio Perez and Philip II of Spain
裏切りの夜 ~アントニオ・ペレスとスペインのフェリペⅡ世
スペイン1578年、フェリペⅡ世の宰相でエーボリ姫の情夫アントニオ・ペレスの暗殺事件
IV. THE NIGHT OF CHARITY〜The Case Of The Lady Alice Lisle
慈善の夜 ~レディ・アリス・リールの場合
イングランド1685年、モンマスの乱後の「血の巡回裁判」で打ち首刑に処された老婦人
V. THE NIGHT OF MASSACRE〜The Story Of The Saint Bartholomew
虐殺の夜 ~サン・バルテルミの物語
フランス1572年、サン・バルテルミの虐殺
VI. THE NIGHT OF WITCHCRAFT〜Louis XIV and Madame De Montespan
魔術の夜 ~ルイXIV世とモンテスパン夫人
フランス1679年、ルイⅩⅣ世の愛妾モンテスパン夫人の黒ミサ事件
VII. THE NIGHT OF GEMS〜The "Affairs" Of The Queen's Necklace
宝石の夜 ~王妃の首飾り「事件」
フランス1785年、王妃マリー・アントワネットの首飾り事件
VIII. THE NIGHT OF TERROR〜The Drownings At Nantes Under Carrier
恐怖の夜 ~ナントへ移送された人々の溺死刑
フランス1793年、ヴァンデの虐殺
IX. THE NIGHT OF NUPTIALS〜Charles The Bold And Sapphira Danvelt
華燭の夜 ~豪胆公シャルルとサフィラ・ダンヴェルト
フランス1467年、ブルゴーニュ公シャルルの裁き
X. THE NIGHT OF STRANGLERS〜Govanna Of Naples And Andreas Of Hungary
絞殺の夜 ~ナポリ女王ジョヴァンナとハンガリーのアンドラーシュ
イタリア1345年、ナポリ女王ジョヴァンナⅠ世の夫君ハンガリーのアンドラーシュ暗殺事件
XI. THE NIGHT OF HATE〜The Murder Of The Duke Of Gandia
憎悪の夜 ~ガンディア公殺害事件
イタリア1497年、ホアン・ボルジア殺害事件
XII. THE NIGHT OF ESCAPE〜Casanova's Escape From The Piombi
逃亡の夜 ~カサノヴァのピオンビからの脱獄
イタリア1757年、ジャコモ・カサノヴァの「鉛の監獄」からの脱獄
XIII. THE NIGHT OF MASQUERADE〜The Assassination Of Gustavus III Of Sweden
仮面舞踏会の夜~スウェーデン王グスタフⅢ世暗殺
スウェーデン1792年、グスタフⅢ世暗殺事件
The Historical Nights Entertainment, Second Series(1919年刊行)
I. THE ABSOLUTION〜Afonso Henriques, First King of Portugal
赦免 ~アフォンソ・エンリケ、ポルトガル最初の王
ポルトガル1128年、建国王アフォンソⅠ世とカトリック教会
II. THE FALSE DEMETRIUS〜Boris Godunov and the Pretended - Son of Ivan the Terrible
偽のドミトリー ~ボリス・ゴドゥノフと イワン雷帝の息子詐称者
ロシア1605年、偽帝ドミトリーⅠ世
III. THE HERMOSA FEMBRA〜An Episode of the Inquisition in Seville
エルモーソ・エンブラ(美女) ~セビリア異端審問の一挿話
スペイン1481年
IV. THE PASTRY-COOK OF MADRIGAL〜The Story of the False Sebastian of Portugal
マドリガルのペストリー職人 ~偽のポルトガル王セバスティアンの物語
ポルトガル1595年、ドン・フアン・デ・アウストリアの娘アンとセバスティアンⅠ世詐称者
V. THE END OF THE VERT GALANT〜The Assassination of Henry IV
ヴェール=ギャラン(助平爺さん)の最期 ~アンリ IV世暗殺
フランス1610年、アンリⅣ世暗殺
VI. THE BARREN WOOING〜The Murder of Amy Robsart
不毛なる求愛 ~エイミー・ロブサートの殺人
イングランド1560年、エリザベスⅠ世の愛人・初代レスター伯ロバート・ダドリーの正妻殺人事件
VII. SIR JUDAS〜The Betrayal of Sir Walter Ralegh
ユダ卿 ~サー・ウォルター・ローリーの裏切り
イングランド1603年、ウォルター・ローリー卿と「メイン事件」
VIII. HIS INSOLENCE OF BUCKINGHAM〜George Villiers' Courtship of Anne of Austria
傲慢公バッキンガム ~ジョージ・ヴィリアーズのオーストリアのアンに対する求愛
イングランド/フランス1625年、初代バッキンガム公とルイⅩⅢ世妃アンヌ・ドートリッシュ
IX. THE PATH OF EXILE〜The Fall of Lord Clarendon
追放の道 ~クラレンドン伯爵の失墜
イングランド1667年、初代クラレンドン伯爵エドワード・ハイド追放
X. THE TRAGEDY OF HERRENHAUSEN〜Count Philip Konigsmark and the Princess Sophia Dorothea
ヘレンハウゼンの悲劇 ~フィリップ・ケーニヒスマルク伯とゾフィア・ドロテア
ドイツ1694年、ジョージⅠ世妃ゾフィア・ドロテアの幽閉
XI. THE TYRANNICIDE〜Charlotte Corday and Jean Paul Marat
タイランニサイド(暴君殺害) ~シャルロット・コルデーとジャン=ポール・マラー
フランス1793年、「暗殺の天使」シャルロット・コルデー
The Historical Nights' Entertainment, 3rd Series(1937年刊行)
I. THE KING'S CONSCIENCE〜Henry VIII and Anne Boleyn
王の良心 ~ヘンリーVIII世とアン・ブーリン
イングランド1536年、ヘンリーⅧ世の二番目の王妃アン・ブーリン
II. JANE THE QUEEN〜The Lady Jane Grey
女王ジェーン ~レディ・ジェーン・グレイ
イングランド1554年、九日間の女王ジェーン・グレイ
III. THE 'CROOKED CARCASE'〜Queen Elizabeth and the Earl of Essex
「ねじ曲がった死体」 ~エリザベス女王とエセックス伯
イングランド1601年、エセックス伯爵ロバート・デヴァルー のクーデター
IV. THE FORBIDDEN FRUIT〜The Marriage of the Lady Arabella Stuart
禁断の果実 ~レディ・アラベラ・スチュアートの結婚
イングランド1611年、「失われた女王」アラベラ・スチュアート
V. THE MERCHANT'S DAUGHTER〜Catherine de' Medici and the Guises
商人の娘 ~カトリーヌ・ド・メディシスとギーズ家
フランス1561年、カトリーヌ・ド・メディシスとギーズ家
VI. THE KING OF PARIS〜The Assassination of Henri de Guise
パリの王 ~アンリ・ド・ギーズの暗殺
フランス1589年、ギーズ公アンリⅢ世の暗殺
VII. THE TRAGEDY OF MADAME〜The End of Henriette d'Angleterre
マダムの悲劇 ~アンリエット・ダングルテールの最期
フランス1670年、ヘンリエッタ・アン・ステュアート
VIII. THE VAGABOND QUEEN〜Christine of Sweden and the Murder of Monaldeschi
放浪の女王 ~スウェーデンのクリスティーナとモナルジテの殺人
フランス1656年、元スウェーデン女王クリスティーナとジャン・リナルド・モナルデスキ(モナルジテ)の殺人
IX. THE QUEEN'S GAMBIT〜Maria-Theresa and the Elector of Bavaria
女帝の賭け ~マリア・テレジアのハンガリー女王即位
オーストリア1741年
X. THE SECRET ADVERSARY〜The Rise and Fall of Johann Frederich Struensee
密かなる敵 ~ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセの興亡
デンマーク1772年、クリスチャンⅦ世付侍医の栄華と没落
XI. MADAM RESOURCEFUL〜Catherine of Russia and Poniatowski
臨機のマダム ~ロシアのエカチェリーナ女帝とポニャトフスキ
ロシア1755年、エカチェリーナⅡ世とスタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキ
XII. THE VICTOR OF VENDÉMIAIRE〜Barras' Account of Bonaparte's Courtship of La Montansier
ヴァンデミエールの勝利者 ~ボナパルトの「モンタンシェ嬢」への求婚に関するバラスの記述
フランス1795年、ナポレオンと女優マルグリット・ブリュネ
【『失われし王 ルイ=シャルル Vol. 2(翻訳版): フェリエール城の三悪人 The Lost King』に収録】
大佛次郎による翻訳について
The Historical Nights' Entertainmentは殺人事件や詐欺事件などをあつかったツイストのある短編が多いので、 収録作品のうち何編かは大正時代に大佛次郎(「八木春泥」「波野白跳」名義)の翻訳により探偵小説雑誌『新趣味』に掲載されたようだ(現物未確認なので裏がとれたら追記します)。
「西洋天一坊」はタイトルからして「THE FALSE DEMETRIUS 〜Boris Godunov and the Pretended - Son of Ivan the Terrible 偽のドミトリー ~ボリス・ゴドゥノフと イワン雷帝の息子詐称者」かとも思ったが、ロシアを「西洋」と呼ぶのには違和感があるので 「THE PASTRY-COOK OF MADRIGAL 〜The Story of the False Sebastian of Portugal マドリガルのペストリー職人 ~偽のポルトガル王セバスティアンの物語」の方かもしれない。
戦前の日本探偵小説界の重鎮である小酒井不木が『新青年』1925年新春増刊号掲載のエッセイ 「歴史的探偵小説の興味」の中で
と書いているが、サバチニ作品群の中では長短編ともにスペインものの占める割合は少ない。偶々日本で翻訳紹介された作品にスペインが舞台のものが多かったのではないだろうか。
「THE PASTRY-COOK OF MADRIGAL」は正確にはポルトガル王家の事件なのだが、大雑把にスペインものに数えられてもおかしくはない。 アントニオ・ペレス暗殺事件やスペイン異端審問の逸話も当時翻訳されて雑誌掲載されていたのかも。
「女皇の恋」はエカチェリーナの逸話、「恋か仇か」はスペイン異端審問の逸話のように思えるが、断言はできない。
カサノヴァ連作シリーズなど
エラリー・クイーンが高く評価している創作歴史短編集『Turbulent Tales (1946年刊)』にも歴史夜話と同コンセプトの単発作品が収録されている。
The Kneeling Cupid
ミケランジェロの贋作事件 1496年、イタリア。若き日のミケランジェロが関わった「Cupido Dormiente 眠れるクピド」贋作詐欺事件。 Turbulent Tales収録
ジャコモ・カサノヴァ連作シリーズ
Casanova's Alibi 1743年、ヴェネチア共和国。ジャコモ・カサノヴァ18歳の出来事。 Turbulent Tales収録(『カザノヴァのアリバイ』日本版EQMM1958年8月号掲載)
他、以下の雑誌掲載されたカサノヴァもの短編は後にまとめられた。
The Augmentation of Mercury
The Priest of Mars
The Oracle
Under the Leads
The Rooks and the Hawk
The Polish Duel
Casanova in Madrid
Heroic livesは実在偉人伝連作
Richard I イングランド王リチャードⅠ世(獅子心王)
Francis of Assisi アッシジの聖フランチェスコ
Joan of Arc ジャンヌ・ダルク
Sir Walter Raleigh ウォルター・ローリー卿
Lord Nelson ホレーショ・ネルソン提督
Florence Nightingale フローレンス・ナイチンゲール