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マゴチのひれ酒はオールインワン晩酌セットと知る

さて、ひれ酒の時間です。

前回、釣った魚でいろいろなひれ酒を吞み比べてみたわけですが、どうやら世界は広く、ひれ酒界にはまだまだ知られざる美酒を生み出す魚がわんさかいるというではありませんか。今回はその中のひとつ、砂浜高校で番長をつとめる「マゴチ」のひれ酒を存分に味わい喜びます。


ひれ酒はフグだけのものにあらず

週末にいろいろな魚を釣り帰っては食して喜んでいるうち、「ひれ酒って本当に美味いんか?」という疑問にぶつかり、真鯛・オオモンハタ・イサキの3魚種のひれ酒を呑み比べてみた前回。

結果、ひれ酒といえば、漠然と「フグでしょ」ぐらいの認識しかなかった自分に、真鯛・オオモンハタ・イサキは、それぞれ微妙に異なる風味や香り、出汁の溶けだし具合など、ひれ酒の奥深さと美味しさを教えてくれました。これから魚を釣り帰った際には、ひれまで味比べする楽しみが増えてQOLが爆上がりしたわけです。

そんな折、どうやらひれ酒通の界隈では「マゴチのひれ酒がヤバイらしい」と囁かれているとの情報を耳にしました。

マゴチ。すなわち遠浅の砂浜に生息するツチノコのような魚で、そのグロテスクな見た目とは裏腹に、生食して良し、煮て良し、揚げて良しの高級魚であり、なおかつ夏のルアーフィッシングの対象魚としても釣り人から人気の魚です。マゴチをあらゆる手で食べつくした時の様子はこちら。

幸運なことに、自分の家は遠浅の砂浜にほど近く、家から車で10分も走れば、マゴチが釣れる砂浜が数十キロにわたり続いています。となれば、砂浜界のひれ酒王・マゴチを試さない手はありません。夏が終わる前に釣りに行き、マゴチのひれ酒の実力を確かめよう、おおそうしよう、と平日夜に簡易テントを携え、泊まり込みでマゴチを釣りにでかけました。

暗い砂浜

マゴチは「照りマゴチ」などと呼ばれ、カンカン照りの夏が旬なわけですが、昨今の夏は暑すぎてとても長時間砂浜に立っていることができません。ってことで涼しい夜に釣りに行くのです。9月ともなれば夜の砂浜は寝るのにちょうど良い涼しさですし、なんとなく夜の方が大きいマゴチが釣れる気もします。

小さいマゴチ

といいつつ、釣れたのは小さいマゴチが1匹だけ。いや~アタリはいっぱいあったんですけどね~と気の小さい詐欺師のような顔で強がってみますが、これが自分のまごうことなき釣りの実力。リリースするか迷うサイズではありましたが、ごめんなさい。今回は美味しくいただくことにしました。

ちなみに、今回はマゴチのひれに用があるわけですが、じゃあ身はもちろんのこと、頭や尻尾などの「あら」はどうなってもいいのか?というと、そんなことはありません。あらの出汁と身は、魚出汁の新たな可能性を広げる食べ方「フォー」にしていただきました。

さて、身もあらもフォーにして食べた後、正真正銘残ったのは「ひれ」たちです。尾ビレ、胸ビレ、腹ビレ、尻ビレを、身を少し残す形でキッチンバサミでチョッキンし、4日間ほど天日干ししました。水分が抜けてかっさかさです。触れると崩れそうな儚さなので、蝶のように花のように大切に扱います。

4日間天日干ししたヒレたち
クッキングペーパーに包んで冷蔵庫で保存。漂う漢方感

マゴチのひれを炙る。その実力は?

子どもが寝静まった頃、モソモソと起きだせば、ひれ酒の夜の始まりです。まずはコンロに網を敷き、さらにキャンプなどでバーナーの火をまんべんなく広げる鉄網(←名前分かりません)を乗せて、極弱火でひれをじっくりねちねちと炙ってまいります。水瓶座特有のしつこさで、何度も執拗にひっくり返すこの時間もまた、自宅ひれ酒の醍醐味のひとつです。

ひれがいい感じに炙り終わる頃を見計らって、日本酒の徳利をレンジで1分チン!します。炙ったひれを入れた器にアチチと言いながら熱燗を注げばほら、もうひれ酒は目の前です。

※ちなみに日本酒の種類は熱燗に向くお酒、すなわち本醸造酒や、純米酒などが良いようですが、主役はあくまでひれから流れ出る旨味なわけなので、変に高級なお酒より、安酒で十分。自分は「白鶴サケパック まる」を使っています。

炙ったひれに熱燗を注ぎましたら、すぐさまラッブでも皿でも、とにかく近くにあるもので慌ててフタをして2~3分蒸らします。カップ麺を待つのと同程度のワクワクとジリジリが入り混じった独特の落ち着かない時間を楽しみます。

琥珀色

3分経ってペリリっとラップを外すと、ほんのりと日本酒が琥珀色に色づいています。前回は日本酒の量に対してかなり多めにひれを入れましたが、今回はマゴチが小さかったこともあり、標準的な割合かと思います。

ひれ酒の枠からはみ出すポテンシャル

さてさて、晴れてマゴチのひれ酒の完成です。果たしてどんな味わいに出会えるのでしょうか。

ひれを炙っている時から、その香ばしい香りからして美味しいことはすでに分かり切っています。そのうえで、出汁特化型なのか、バランス型なのか、結構生臭いやん系なのか、味のベクトルと深度が知りたいわけです。果たして。

ちょびり。

口に含みます。一瞬それほどインパクトがない普通な感じ?期待しすぎた?と思いきや、すぐにそれが誤りだと気づきます。あまりに均整のとれたバランスによって逆にインパクトがないように脳が錯覚したのです。2口3口と呑み進めるうちに、変なクセが全くない、どストレートな旨味に溢れたその実力が全貌を現しました。

さらにマゴチのひれ酒は、その抜群の旨味とバランスで、ひれ酒というカテゴリを軽々と超える行動を自分に促したのです。すなわち。

それはすなわち、ひれ酒を呑みつつ、バリバリとひれ自体も丸食べしてしまうという行為でした。

スープを飲んだ後に麺をすするラーメンのように、汁をすすった後に豚肉と牛蒡を口に運ぶ豚汁のように。ひれ酒を呑んだあとに、自然とひれをかじり、またひれ酒を口に含み、またひれをかじり・・・という無限ループが発生したのです。(ちなみに真鯛やイサキのひれ酒では、かじりこそすれ、ひれ全てを食べつくすことはありませんでした)。

マゴチのひれ酒は、つまみと熱燗がこれひとつで完結する完全な一人晩酌セットとして、そこにあったのです。

ひれも全部すっからかんに食べちゃった

「始めたばかりのひれ酒の旅が、もう終わってしまった・・・」

そんな虚無感すら感じてしまうほど、ひれ酒としての完成度が高かったように思います。この先自分は、マゴチを超えるひれ酒に出会うことができるのか・・・。

くしくも季節は秋へと移り変わり、1年でも最も魚が釣りやすい季節がやってきます。ブリ、ヒラメ、カマス、カサゴ、アイナメ、キスにハゼ。果たして、これらの魚の中にマゴチを超えるひれ酒の主はいるのでしょうか。

47歳となった自分には、もっと考えないといけない大切なことがたくさんあるような気もします。でも楽しみなことです。

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