「初めて会うのが病院とはね」
〇月〇日
部屋で、スイングジャズのCDを聴いていた。その楽団の名前を知っているかと思い、
「ジャズで、デュークが付くのは?」
と妻くんに聞いてみた。
「デューク西郷」
と妻くんは言った。二つの意味で間違っている。デューク西郷ではなく、東郷。ゴルゴ13。殺し屋だ。そしてジャズ・ミュージシャンではない。
いまさらデューク・エリントンの名前を出す気にもなれず、質問はやめて、私はそのCDを聴き続けた。
〇月〇日
妻くんが約一週間、入院した。病名はこの話には関係ないので、書かない。
大部屋で、カーテンでしきってあるが、声は聞こえる。
面会時間は15分。
隣のベッドから声が聞こえてくる。
「初めて会うのが病院とはね」
と男性の声が聞こえてくる。
え? 初めて? と妻くんは思う
チャラい声だった、と妻くんは言う。
入院しているのは女性。面会者は男性。
「びっくりした」
女性のくすくす笑い。
「代々木公園で写真を撮ってきた」
男性はそんなことを言う。
どうやらマッチングアプリで知り合って、初めて会ったようだ。
妻くんは、男の顔は見なかった、と言う。
入院中には病気以外でも、ドラマがあるようだ。
〇月〇日
ジョルジュ・メリエス監督「月世界旅行」を配信で観た。
1902年のSF映画。14分。
味わい深い。
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