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エラリー・クイーンの悲劇⑩を更新しました

 小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話エラリー・クイーンの悲劇⑩を更新しました。
 よろしければ続きは、小説サイトでご覧ください。

 なぜだ、とおれは尋ねた。デイジーには、男がいたのだ、とシノはいった。おれたちの部屋には、固定電話にかかってきた男からのデイジーのメモが数枚、残っていた。ホテルの住所と部屋番号が書かれていた。男と連絡を取り合い、ホテルに泊まっていたのだった。おれは、デイジーを信頼していたからこそ、作詞・作曲のクレジットをデイジーにした。それなのに、どういうことだ? 
 だから、ある日、六本木のホテルに泊まっていたデイジーのワインに、隙を見て、青酸カリをたらしたのだ。
 シノはそういった。

 そんなつまらない理由で、デイジーを殺したのか?
 その話を聞いた瞬間、おれは叫ぶと、デスクの上にあった、いちばんぶ厚そうな本を選び、シノの頭部めがけて、思い切り殴りつけていた、とイッチはいった。大きくて太くてきれいな音がした。イッチはくりかえし殴打した。ふと我にかえると、シノは倒れた拍子に、デスクの角に後頭部を強く打ちつけ、大量の血が流れていた。
 シノはぱっちりと目をあけ、おれを見つめると、にっこりと微笑んだ。
 ありがとう、イッチ。
 ありがとう?
 ありがとう、イッチ。シノはたしかに、もう一回、そういった。
 これでいいんだ、とシノはいった。おれはさ、この二十五年間、死にたかった。いや、事実上、死んでいたのだ。愛する女が死んで、それでも生きている理由なんてない。おれはこの二十五年間、不完全な死体だったのだ。イッチのおかげで、これでようやっと完全な死体になれる。イッチが罪の意識を感じることはない。おれは、もともと生きていなかったのだから。さあ、その本を渡してくれ。シノは手をのばして本を受け取ろうとしたが、ろくに動けないようだった。
 おれは、シノの手に本を渡した。


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緒 真坂 itoguchi masaka
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