
いつかみた夏の思い出
妻くんの夏の思い出話である。
遠い昔、妻くんは、スーパーの一角にある、軽い食べ物を出すイートインコーナーで、アルバイトをしていた。夏だった。あまりに暑かったので、涼しくしてあげようと、ざくざくと氷をたくさん入れて、お客に出した。
あ~、いいことをしたと思った。
その後、「氷ばかりで、飲み物がほとんど入っていない」とお店にクレームがきたという。
実話である。
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「いつかみた夏の思い出」というタイトルは、昔観たことがある、劇団青い鳥の舞台「いつかみた夏の思い出」から引用した。
調べてみると、1986年の芝居で、下北沢スズナリで観た。オープニングにかかった音楽が、坂本龍一「SELF PORTRAIT」だったこと、いつかみた、というタイトルからもわかるように、どこかでみたことがあるような気がするが、実際にはない夏の思い出のイメージを重ねていく芝居で、物語らしい物語はないが、すごく感動したことを覚えている。
劇団青い鳥は、女性だけの劇団で、特定の作家、演出家をおかず、役者全員が参加しながら創る独特のスタイルで芝居を作っていた。才能がある作・演出家が、自分が主催する劇団を引っ張っていく小劇場演劇の劇団に慣れていた私には、新鮮に映った。というか、役者全員がアイデアを出し合って、芝居を完成させていく、という劇団は、ここが唯一ではないだろうか。
ステージの最後に「一同礼!」と全員で礼をすることから、作・演出を市堂令としていた。
もちろん、その作り方には、問題もあり、役者たちの力量としたい芝居の方向性が同じであること、役者たちの人間関係が良好であること、そして、役者として成長していくスピードが同じであることが、前提になるだろう。一人だけ、一気に抜きんでて成長してしまうと、集団のバランスが崩れるからである。
好きな劇団で、追いかけるようにずっと観ていたが、あるとき「あれ、今回は、面白くないな」と思うときがきた。
次に観に行ったときも、同じ感想だった。その次は観にいかなかった。
それからは観に行っていない。
数年後、この劇団は、集団で作・演出をする方法をやめたという記事を読んだ。
人間が成長するというのは、難しいものだ、とつくづく思う。
でも、いまでも、この劇団は、個人で脚本、演出を手がけながら、続いている。
いつか、もう一度、新たな気持で観に行きたいと思う。どんな芝居をやっているのだろうか。
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