エラリー・クイーンの悲劇③更新しました
小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話エラリー・クイーンの悲劇③を更新しました。
よろしければ続きは、小説サイトでご覧ください。
知り合ったころ、私は、イッチのいたロックバンドをよく知っている、と話した。FAIR WEATHER。好きなバンドだった、と。
「ずいぶん前のことです。有名になったのは、たまたま運がよかっただけです」
イッチはいった。
インディーズのバンドで、メジャーデビューの話もあったが、結局その前に解散した。
「西新宿にあったロック専門店で、CDを買って聴きました。カッコよかった」
私はいった。
「でも、その感想は主として演奏と曲についてのものでしょう? ハイテンションで、タイトな演奏。だが、ボーカルはど素人。音楽雑誌のレビューによくそう書かれましたよ。いまでもよく覚えています。批評家なんか死んでしまえ、と心の底から叫んだものです。しかしながら、その批評はまぎれもなく正しかった。おれには、ボーカリストとしての才能はなかった。ただ、みてくれがよかっただけです」
「いや、そんなことはないでしょう。あなたがいちばん人気があった」
「いいえ、おれはみてくれだけの男です」
イッチは自虐的にいった。
「自慢するわけではありませんが、おれは、カリスマ性を持つルックスと持て囃され、当時はもてまくっていました。強力なグルーピーがついて、一週間に十人の女の子とやったこともあります。一日に数人、時間帯を変えてやったりもしていました。しかも傲慢にも、それが当然だと思っていました」
「ビートルズの曲のタイトルのようだ。エイトデイズ・ア・ウィーク」
「まさにそんな感じでした」
私は、イッチのルックスをちらりと見た。
あながちうぬぼれだけではないようだ。中年から初老に向かう年齢に、さらに重みが加わり、魅力に磨きがかかっている。
「だが、それだけの男です。才能はなかった。愛もなかった」
「なかったのですか、愛も」
「恥ずかしい告白をしますが、おれは愛あるセックスを知らないのです。ただ、やっただけ。おれが愛していたのは、デイジー。彼女だけです。でもデイジーとはしなかった。できなかった。ムリヤリでもいい。土下座してでもいい。デイジーとセックスしておけばよかったと心から思っています。こんな状態になってしまってからは、なおさらに」
「こんな状態?」
私は思わず尋ねてしまった。