「アラフォー女子の厄災」あとがき
私の新作小説、「アラフォー女子の厄災」(櫻門書房)が発売になりました。amazonや、ネット書店、めがね書林にて入手可能です。
さて、下記の文章は、「アラフォー女子の厄災」に収められたあとがきです。
あとがきを読んで興味を持たれたかたは、ぜひ「アラフォー女子の厄災」を読んでみてください。
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選択肢は二つあった。比較的長い小説を本にするのと、小さな作品をいくつか集め、絵本のような本を作るのと。
私は、今回、後者を選んだ。
これは小さな作品を集めた小さな本である。その小品に思いをこめた、つもりである。
若いつもりが年を取った、というのは奥田民生の歌詞だが、いつまで若いつもりでいるのか、と思うことがある。私が若いころ、職場の先輩たちは、年相応の年輪の重ね方をしていた。少なくとも私にはそのように見えた。
肉体的には確実に衰えているのに、精神的に成長した、成熟したという実感が、私にはない。
生活が変わらないことにもその一因があると思う。年齢にふさわしい生活をしていないのだ。
職場とレコード屋、本屋、古本屋、ときどき休日のランチ(外食)では、若者と変わらない。
家で本を読み、ネットに文章や小説を書いている。
若い時分、「結婚したいときがそのひとの適齢期」「適齢期は世間ではなく、自分で決める」といっていたひとたちがいた。その後、二十年が過ぎても、いまだに結婚していない。
繰り返しになるが、若いつもりでも年を取る。
その結果、さまざまな事実に気がつく。
そんな年齢がアラフォーではないか、と私は勝手に思っている。そんなアラフォーの、女子に焦点を当てて書いてみたのが、「アラフォー女子の厄災」である。
よりよい答えを導き出す旅は、簡単には終わらない。そう思う。
かっこいいアラフォー女子を目撃したことがある。とある日曜日、落ち着いた、わりとこじゃれたイタリアンレストランのランチブッフェにいった。東京都道435号音羽池袋線に沿ったレストランだった。私たちのほかには、お客は数人だったように記憶している。私たちは、(もちろん!)食欲の怪物と化して、時間ぎりぎりまで食べまくった。なにしろ、ランチブッフェなのである。その店の明るいガラス張りの窓際のテーブルについて、一人静かに読書をしているアラフォーらしき女子がいた。大人服といった印象のおしゃれなジャケットとパンツを着ていた。彼女の前には、コーヒーカップがぽつんと置いてあった。ランチブッフェにきて、コーヒーしか飲まない。読んでいたのは、ダン・ブラウン「インフェルノ」だった。夢中になって読みふけっているようだった。私は、しっかりと見てしまった。
この贅沢な余裕と時間の使い方、過ごし方。
か、かっこいい、と私は思った。
「別れの季節は三月だけとは限らない」は高校を舞台にしたミステリで、庶務課の仕事内容は、それぞれの高校において、異なっているだろうが、ここで書かれた手続き書類は、おおよそ事実に基づいている。もちろん、断るまでもなく、ストーリーと登場人物、そして高校は、作者が作り上げたフィクションである。
「私たちは、羅針盤を持っていない。闇に包まれた船に乗っている。一寸先は見えない」という話者の思いは、作者の思いでもある。若いひとに簡単に(安易に?)感情移入してしまうのが、私の「若いつもり」なのかもしれない。
「ささやかな償い」は、ネットに発表したとき、リアルだといわれたが、フィクションである。長いあいだ生きてきて、他人を傷つけたことは、かぞえきれない。また、現在もさまざまな人間を傷つけている。犯罪のような大きな罪はない。が、小さな過ちはひっきりなしにおかしている。過去の自分の言動や発言、失言をときどき思い出して、うぎゃっ、と叫んで舌を噛んで死んでしまいたくなることもしばしばである。大学の恩師、伊藤礼先生に「まちがいつづき」という著作があるが、そのタイトルは、伊藤先生ではなく、私にこそふさわしい。まちがいつづきの人生とは、私のことである。
うぎゃっ、と叫んで舌を噛んで死んでしまいたくなるような言動や発言、失言に対して、ささやかながら、償いをしたい。
「ささやかな償い」とは、私にとって、そういう意味である。
最後になるが、この「アラフォー女子の厄災」を含めて、私の本を五冊出してくれた櫻門書房の森俊雄社長が亡くなった。昨年の十月のことだった。高齢ではあったが、お会いすると、いつも矍鑠としていた。自分でも文章を書く方で、機関誌に載ったエッセイを読ませていただいたことがある。
私の本がアマゾンでそれなりに売れているという話をすると、
「あんたの本は、面白いから売れるんだよ!」
と断言口調でいわれた。
櫻門書房の店内に私の本の宣伝ポスターが貼ってあった。社長の手書きの文字で、ロゴが描かれていた。
私の本を平台に積んで、特集を組んでもらったこともある。
いろいろとお世話になりました。ご冥福をお祈りいたします。
緒 真坂