
妻くんについて
「妻くんといっしょ」という本を出す(した)。めがね書林にて発売中。アマゾンでは5月26日発売である。
妻くんって何? という質問をいただいた。妻くんとは細君のことである。つまり奥さん。細君ということばは、最近聞き慣れないが、明治の小説にはわりとある。たとえば夏目漱石「道草」。
その日彼は家へ帰っても途中で会った男の事を忘れ得なかった。折々は道端へ立ち止まって凝と彼を見送っていたその人の眼付に悩まされた。しかし細君には何にも打ち明けなかった。機嫌のよくない時は、いくら話したい事があっても、細君に話さないのが彼の癖であった。細君も黙っている夫に対しては、用事の外決して口を利かない女であった。
私が自分の奥さんのことを書こうとしていたとき、忽然として「細君」ということばが脳裏に浮かんだのである。細君ではそのままだ。だから、「君」を「くん」と呼び、妻くんとした。
語源由来辞典にはこう書いてある。
細君の「細」は、「小」「つまらないもの」の意味で、中国語からの借用。
自分をへりくだっていう「小生」や、自分が勤めている会社を「小社」というのと同じく、細君は他人に対し自分の妻をへりくだっていう語である。
転じて、他人の妻をいうようになったが、ごく軽い敬意をもって同輩以下の人の妻をいう語なので、目上の人の妻を「細君」と言うのは失礼にあたる。
この説明に倣えば、ごく軽い敬意と親愛の意味を込めて、「妻くん」と書いている。
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