エラリー・クイーンの悲劇⑪終を更新しました
小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話エラリー・クイーンの悲劇⑪を更新しました。
第2話エラリー・クイーンの悲劇は、この⑪で終了です。
よろしければ続きは、小説サイトでご覧ください。
(次回は、第3話が始まります)
「で、そのシノの話を真に受けたわけか?」
私はイッチに尋ねた。
「どういう意味だ?」
「まんまの意味です」
「本人の告白なのだから当然だ」
イッチは眉間にしわを寄せて、首を左右に振っていった。
「デイジーは、青酸カリで死んだ。それは事実だ。シノは、どこから青酸カリを手に入れたのだ?」
私はいった。「医療関係者じゃなければ、そう簡単に手に入れられる品物ではない」
「そんなこと知るもんか。持っていたから持っていたんだ。そういったからそうなんだ」
「デイジーは医者の娘だ。デイジーなら、青酸カリを、比較的簡単に手に入れられるだろう」
「どういう意味だ?」
「そういうことだ。青酸カリは、デイジーが用意したのではないか、といっているのだ」
「まさか。なぜそんなことをする必要がある?」
イッチは目を瞠っていた。肩が小刻みに震えている。
「質問を変えよう。青酸カリは、ワインのなかに入っていたのか?」
イッチが息を呑んだ。愕然として、思い出しているようだった。
「たしか報道では、コップの水のなかに入っていて、ベッドの上で死んだ、と」
「シノはわざと、あなたを挑発したくて、そういったのだ。殺してほしかったからだ」
「なぜだ?」
「死にたかったからだろう。シノは、二十五年間、生きてこなかった。不完全な死体だった」
私は、封筒から取り出した、プリントアウトした紙の束をどさっとイッチの両手に渡した。相当に古い用紙で、全体的にしみがあり、黄ばんでいた。40×40の書式で、こまかいフォントでびっしりタイプしてあった。100枚近くあった。
「読んでみろ」
「なんだ」
「デイジーの自伝だ。シノの部屋にあった。必ずどこかに保存してあるはずだ、と思っていた。捨てるはずがない、と」
「どういうことだ」
「シノは、デイジーを、愛していたからだ」
イッチは短い時間で原稿に目を通した。
「どうしてこれがシノの部屋にあったんだ?」
「デイジーが六本木のホテルで缶詰になって書いていた原稿だ。シノがプリントアウトして持っていたんだ。出版社に依頼されて、デイジーが書いていたものだ。おそらくメジャーデビューCDと合わせて、出版する予定だったのだろう。原稿の最初にあるとおり、タイトルは『最後の自伝』だ」
イッチは、ごくりとつばをのみ、啞然としていた。