レポート | 2024年4月のいとち | 問診ではないインタビューとは?
最南端とはいえ東北のいわき市。朝はまだちょっと肌寒い日もありますが、日中はすごく穏やかで過ごしやすい天気が続いています。かしま地区の自然も、新緑の緑が徐々に濃い緑へと色が変わって、生命のエネルギーがみなぎって見える、そんな風景が感じられるようになりました。
さてここからは、4月のいとちについてレポートしていきたいと思います。いとちってどんな活動しているの? どんなことが学べるの? と思っていた方、ぜひぜひこのレポートを参考にしてみてください。
この4月ですが、いつものように、福島県立医科大学の5年生たちが地域医療を学びに来てくれています。医大のカリキュラムに組み込まれた実習プログラムで、月曜日から金曜日まで、週がわりで2名ずつ(1名のときもあります)、かしま病院に地域医療を学びにきています。
研修は月曜日から始まります。初日は施設見学がメインですが、いきなり現場に突っ込まれることも多々あります(要覚悟)。火曜日には、いとちワークが2時間ほど組まれていて、学生たちは、私たちと一緒にまち歩きをしたり、対話的なワークショップなどに臨みます。いつもとは別角度から地域医療の解像度を上げていくような、そんな研修になっています。
そして、水曜からはさらに実地での研修があり、県立医大生は金曜日まで現場で実習を続け、大学のある福島に戻ります。いとちワークには、この福島県立医科大学の学生以外にも、地域医療を学びにくる大学生や研修医たちがおり、みんなで一緒に地域を学ぶというプログラムになっています。
この4月は、まち歩きしやすい時期。太陽の光を浴び、風を感じながら、まちの中を歩き、その地域に暮らす人たちはどんな風景を大切に思っているのかを考えてみましょう。目の前の患者さんの「患者としての部分」だけでなく、その人を全人的に、複雑な背景を持った人として捉えるための端緒を掴む。そんな時間になるはずです。
4月序盤は、天気のすぐれない日もあり、まち歩きできない日もあったんですが、雨天は雨天でコンテンツがあり、今回は「アドバンス・ケア・プランニング」を体験できる「どせばいいカード」を使ってワークを行った日もありました。その日のレポートは、いとちインターン生の髙橋さんのレポートで読むことができます。ぜひご覧ください。
いとちワークが終わっても、医大生たちは再び医療の現場実習に入っていきますが、そこで鍵を握るのが「インタビュー」の課題です。「インタビュー」と聞くと、症状やつらさを聞く、いわゆる問診的なアプローチを想像する医学生が多いと思いますが、かしま病院の地域医療実習では、できるだけ「その人そのもの」と向き合うことを大切にして欲しいと考えています。
重い病気を抱えているとしても、その「症状」だけがその人の人格ではありません。どんな人生を歩んできたのか。そして、ここからどんな人生を歩んでいきたいのか。そんなヒューマンヒストリーを聞き出していくことで、その人が大切にしているもの、大切にしてきたこと、これからも大切にしていくであろうことが想像できるようになるはずです。
そのストーリーは、患者さんを全人的に捉えるヒントを提供してくれるだけでなく、退院して帰宅したあとの暮らしを想像する回路になります。特にご高齢の方にとって「残された人生をどう生きたいのか」という問いは、「どう最期を迎えたいのか」にもつながります。こうした生の話を聞き、率先して対話に取り組むこと。それがいとちワークのインタビューです。
第3火曜日は、いつものようにさくらんぼ保育園での実習です。ヤンチャな健康優良児が多いのが、この保育園のいいところ。子どもたちは医療からは遠い存在かもしれませんが、一緒に園庭を駆けずり回り、話の相手となることで立ち上がってくる思考回路というものがあると思います。
学生たちとしても、なぜ医学部の実習なのに保育園へ? と疑問に思うかもしれませんが、学校の外に出て、自らの価値観が揺さぶられる時間を過ごすことが学びへと変化していくのだと思います。病院や大学で内面化している世界を飛び出してみること。いとちは、それを大事にしたいと思います。
指導医の中山文枝先生からは、「いとちワークを経ることで、学生たちのインタビューの質が変わりました。症状のことだけでなく、病気になる前のこと、病気に対してどんな感情を持ち、どう解釈をしているのか。趣味や家の様子も詳しく聞いたり、退院後の暮らしの様子を気にしながらのインタビューができていました」というフィードバックがありました。
学生たちの声を紹介します。
「普段、全く病院の外に出ることがなかったですが、外に出て病院と全く関係のない保育園で遊ぶことで、地域医療と一言に言いますが、自分が地域を全く知らなかった側面があったと気付かされました。自分の知らない側面があることを常に意識し、患者さんと接したい」
「医療に対して『怖い』というイメージを持っている子どもたちは多いと思いますが、医師と関わる機会を増やすことで、そのイメージを軽減することにつながるなと感じました。また、病院に来た患者さんだけを相手にするのではなく、患者さんのその背景に地域の方々がいる、ということを実感できました。地域という大きな視点で捉えていく視点を学べました」
「医療関係者は、患者さんとの信頼の上で医療が成りたっている。患者さんと接するにあたり、患者さんを一人の「人」として見ることが大切だと学んだ。今後のコミュニケーションの取り方などに活かしていきたい」
いとちワークは、「非医療」のさまざまな人たちも一緒に学び合う時間。いとちのワークの時間が、「その人らしさ」に迫るきっかけになっているのだとすれば、とてもうれしいことだと思いますし、私たちも、この学びをより良いものにするために、さらに工夫を重ねていきたいと思います。