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小腸がんと私⑥

CVポートは術後すぐに使えるとのことで
抗がん剤の日になりました

まず、朝から色々な人が部屋に来て
私に様々な説明をしていきました

特に印象的だったのは薬剤師さん

若い男性でしたがとても優しくて
私へ抗がん剤の説明をしながら
泣いてくださったのです

言いにくいのですが…
このお薬は…ずっと使えるわけではなくて…
手が痺れて…あ、ピアノを弾かれる方ですよね
ええと…うん…でも痺れで弾けなくなる前に
お薬をやめることもできますが…
ううん…ええと…でも…
でも伊藤さんはお若いから…
治療をやめない方が宜しいかとは思いますが…
でもどうしても痺れに耐えられなくなったら
早めにお薬を止める相談を主治医としてくださいね…でも…個人差ありますから…
痺れが出ない人も居るかと… 
ええと…だいたい9割の人が
痺れを訴えますが…あっ僕…
傷つけるようなこと言ってませんか…?
ごめんなさい…
あっ、僕、痺れを軽減できる対処薬がないか
先輩に聞いてきます、また来ます!

こんな感じで
すごく私を気遣ってくださり
何度も来ては戻り

このお薬どうですかって
主治医に提案しておきます!と

2種類の飲み薬を追加してくださったようです

その時の私は全く
前向きに話を聞くことができませんでしたが

その人の優しさを感じて、とてもありがたく
こんな人で良かったなと感じたことを
覚えています

昼前に主治医が来て
抗がん剤の投与が始まりました

主治医は言いました

伊藤さん、
この薬に、もしもアレルギーがでたら
伊藤さんに使える薬はゼロになるから
アレルギーが出ないことを本当に願ってるよ

そうなんだ…と思いました
アレルギーってどんな感じなのかな

ベッドに横たわって待つしかない私は
点滴のせいで何度もお手洗いに行きたくなり
歩きながら

どうやってこの現実を受け入れるのか
また考えていました

1人でベッドに横になり
天井を見ていると

本当に死ぬことしか考えられず

死ぬってどんな感じなのかな
あまり苦しみたくないな
がんで死ぬってどんな感じなんだろう

とやめればいいのに
色々と検索し始めました

良いことが書いてある訳がなく
むしろ、本当に目を背けたくなるような
現実がそこにあり

勝手に絶望してしまいました

まだ決まったわけじゃないから
と自分を律しながらも

1人なので闇から這い上がる術がなく

大号泣で点滴棒を引っ張り
デイルームに行きました
人の気配が欲しくなったのです

しかし病棟を歩く人たちは
本当にご年配の方ばかりで

病室でうめく人、
苦しそうに叫んでナースを呼ぶ人

看護師さんも淡々とお仕事をしていらっしゃり

一層ひとりぼっちな感覚になり
泣いたまま病室に戻りました

懸念されていたアレルギーは起こらず
まさかの吐き気も全く起こらず

奇跡的に全くなんの副作用もないまま
3日間の投与が終わりました

途中、副作用がないことを
自分で心配になってしまい

何度も看護師さんに
いつ来るのですか、いつ吐き気が来るのですか

と何度も聞きましたが

「そのうち来るよ」「針を抜いたら来るよ」
「針入ってる間に来るよ」

皆さん曖昧な答えでとても不安でした

そしてアレルギーどころか
全く副作用が起こらないまま退院となり

唯一無二のお薬で
暫くの私を救ってくれる大切な治療が
始まりました

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