ある秋の回想
後ろを振り返ると
影はひとりで歩きはじめ
その歩みに引きずられるように
彼女はその身体を影の方へと送っていく
影が湿り気を帯びたその穂先を伸ばした
ある日
乾いた土道の終点
雑草の繁みとのその境い目に彼女は立っていた
あれはどこかの田んぼ道だったろうか
空は無邪気に白い雨を降らせて
傍を流れる小川の水も
うなだれる青い雑草も
彼女の目に憂鬱に映った
夏の盛りにしてはひどく冷ややかな昼間だった
彼女はもう一度振り返った
後ろにはもう影はいない
そして影の消えたその隙間が
いつしか白く輝きはじめた
彼女は瞬間にくずおれ
しゃがみこみ顔をうずめ
その青白い二の腕を細い両腕で強く抱え込んだ
つくられた闇は暗く透明な夜を広げ
ひたひたと黒い水が湧き上がってくる
幻覚に襲われかかった
彼女は死ぬまで
その夜を眺めていたのだという……