短歌〈「も」の予測変換「申し訳ありません」を「桃」にするお仕事です〉をコントにしてみると…
男性2人(先輩・後輩)、富士山の登山道を歩いている。
後輩、立ち止まる。
後輩「先輩…自分、武者ぶるいが止まりません」
先輩「寒いんだろ?」
後輩「はい!」
先輩「"はい!"じゃないよ。富士登山ナメてんの?何で半袖短パンなんだよ」
後輩「社員旅行のしおりに"気軽に富士山!"って書いてあったんで」
先輩「それ、意気込みの部分だから。服装とか装備一式書いてあっただろ?」
後輩「すみません!」
先輩「まったく。それより、立ち止まらずに歩いてくれる?」
後輩「なぜです?」
先輩「なぜって、お前を先頭に渋滞してんだよ。後ろに部長や社長が続いてるから」
後輩「霧で全然見えないっすね」
先輩「ちょっとガスってきたな。風も強いし、帰りもあるし急ぐぞ」
後輩「はい!」
2人、歩き出す。
後輩、数分後に再び立ち止まる。
後輩「先輩!」
先輩「今度は何?」
後輩「この前テレビ見てたら、外国人のタトゥー特集やってたんですよ」
先輩「おぉ。それがどした?」
後輩「腕にタトゥーで"豆腐"って書いてあって」
先輩「あぁ、あるよなそういうの」
後輩「木綿っすかね?」
先輩「知らねーよ。外国の方だって豆腐の種類まで想定して彫ってねーだろーよぉ」
後輩「ですかね?絹?いや、高野豆腐の」
先輩「(被せるように)歩いてくれる?」
後輩「あ!はい!」
2人、歩き出す。
後輩、歩きながら、
「先輩って、都会の喧騒の中で目を瞑ったことあります?」
先輩「無いけど?」
後輩「やってみて下さい」
先輩「…なんで?」
後輩「意外と落ち着くんですよ」
先輩「…何の話?てかさ、今俺らがいるのは都会の喧騒じゃなくて富士山の登山道だからね!」
後輩「はい!」
先輩「ったく…」
後輩、しばらく歩き、立ち止まる。目を閉じる。
先輩「だから止まるなって!そして道の真ん中で目を閉じるな!」
後輩「(薄目を開け)静かに。鳥の鳴き声が聞こえます」
先輩「えっ?鳥?こんな高い所に鳥なんて」
後輩「(人差し指を口元に当て)静かに!」
2人、並んで足を止め、耳を澄ます。
辺りは霧が濃く、強風が吹き、風の音しか聞こえない。
後輩「珍しい鳥かも。"イキィーイキィー"と鳴いてます」
先輩「(手を耳に当てながら)…確かに聞こえるな」
後輩「(目を閉じながら)結構近いっすね」
先輩「これさ…怒鳴り声じゃない?」
後輩「え?」
先輩「霧でよく見えないけど、後ろに続く部長が"行けぇぇぇ!!行けぇぇぇ!!"って叫んでんだよ!(指差して)ほら!うっすら見える部長が何か言ってる」
後輩「どうりで!やたら近くで聞こえると思いました。てっきり珍しい鳥かと」
先輩「バカ!聞こえるって!うちらのペースが遅いんだよ。進むぞ」
後輩「はい!」
2人、歩き始める。
数分後、後輩、再び立ち止まる。
先輩「お前は…なぜいちいち立ち止まる?」
後輩「私の人生の話でしょうか?」
先輩「違うよ!なんでこのタイミングでお前の過去振り返るんだよ!興味ねぇよ!」
後輩「そうですよね。鳥の声に耳を澄ませたのなんて教習所のS字カーブ以来ですもん(笑顔)」
先輩「ん?なんて?お前、少し言動がおかしいな?高山病か?それともそういう人?」
後輩「高山病かも…しれないっす…この前、先輩のデスク勝手に開けてお菓子食べたの自分です!」
先輩「はっ?なに急に?てかあれお前だったの?」
後輩「ジムでエアロバイクを漕ぐ人のガラス越し」
先輩「なにヤダ恐い。その言い方。でも続きが気になる」
後輩「会社の最寄り駅の目の前にジムありますよね?」
先輩「ガラス張りで外からでも中で走ってる人の姿が見えるとこ?」
後輩「そうです」
先輩「それがどしたの?」
後輩「ガラス越しに」
先輩「ガラス越しに?」
後輩「ジム内でエアロバイクを漕ぐ人の真正面に立ち」
先輩「ジム内でエアロバイクを漕ぐ人の真正面に立ち?」
後輩「視線を合わせながら」
先輩「視線を合わせながら?」
後輩「ホットドッグを美味そうに食ってる奴がいるんですよ!」
先輩「ヤバイ奴じゃん!」
後輩「自分です!(笑顔)」
先輩「お前かっ!!こっわ!恐いって。やめな?そういうの。てか何で急に暴露大会始まったの?大丈夫か?おい!しっかりしろ!」
後輩「クライアント企業への謝罪メール」
先輩「今度は何?恐いんだって!ほんで映画のタイトル予告みたいな喋り方すんのやめて?」
後輩「"申し訳ありません"部分を全て"桃"にして、誤送信したの自分です!」
先輩「はっ!!あれお前か!ちょっと待て。それはジムの話とは次元が違うぞ?」
後輩「先輩、"申し訳ありません"メールし過ぎなんですよ。だから、予測変換で"も"と打った時に"桃"が出てきたら嬉しいかなって…優しさです!」
先輩「裏目に出てんだよ。優しさの遥か向こう側だよ。社長と取引先から"誠に桃ってどんな桃?"って詰めれたんだぞ!」
後輩「なぞなぞみたいですね」
先輩「なぞなぞだよ!」
後輩「なぞなぞなんですか?」
先輩「いや俺にとってはなぞなぞ位の難問という意味であって」
後輩「静かに!また鳥の鳴き声が聞こえます!」
霧は薄く、微風。
社長の声("マティーニ!!マティーニ!!")
後輩、無言で、もの凄い勢いで歩き出す。
先輩「これは…立ち止まれ!社長が"待て"って言ってるの聞こえたんだろ!俺らの話全部聞こえてたんだよ!桃の説明しろって!」
後輩「(頂上へ走り去りながら)誠に桃ぉぉぉ!」
暗転。