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【12/1 文学フリマ東京39】『一年に三回全身麻酔の手術をした話〜毛巣洞と身の上話〜』サンプル
はじめに
2024年12月1日開催、文学フリマ東京39にて頒布予定のエッセイ本『一年に三回全身麻酔の手術をした話〜毛巣洞と身の上話〜』の冒頭と本編の一部をサンプルとしてアップします。
※イベント後、BOOTHにて販売を開始する予定です。BOOTHは以下のリンクから。
あらすじ、書籍情報
【あらすじ】
202X年の正月、高月院四葩の臀部を謎の激痛が襲う。痛みに耐えきれず近所の病院の救急外来を受診したことで、事態は大きく動き出した。
一年に渡る「皮膚に毛が埋まって膿が溜まる病」こと毛巣洞という病気との闘い、皮膚科界の名医との出会い、年に三回の全身麻酔手術、四葩の家庭環境と虚弱っぷり、エトセトラ。
これは珍奇な病とその周辺で起こるさまざまな出来事を記した一人の大学生の闘病記である。
【書籍情報】
『一年で三回全身麻酔の手術をした話〜毛巣洞と身の上話〜』
A6判 | 本文308p | エッセイ、闘病記
カバー付き| オンデマンド印刷 | ¥1,000(税込)
サンプル①『まえがき 毛が埋まって膿が溜まる病』
濃い薄いはあれど、人間誰しも皮膚には毛が生えるものである。その毛を無駄だと処理することもあれば、敢えて生やしっぱなしにしておくこともある。
処理する場合には、さまざまなトラブルがつきまとうという話も聞く。腋を剃ったら黒くなったとか、皮膚を傷付けてしまったとか、人それぞれ何かしらの体験をお持ちだと思う。
私は女性ながらにして毛が濃い側の人間だ。カミソリで剃らなければ腕も足も腹部も腋も太い毛で覆われてしまう。剃っても剃っても生えてくる。本当に厄介なヤツである。
女性の方なら馴染み深いと思うが、腋毛や眉毛を毛抜きで抜くことも多々あるだろう。私も生えてきた毛をちまちま抜いている。
初めに抜き始めたのは中学生の頃で、腋毛をただひたすら抜いていた。抜いても抜いても生えてくるもんだから、二日に一回は自分の両腋の毛と闘っていた。
ただ皮膚から真っ直ぐに生えてくる毛はまだいい。だってひっこ抜くだけなのだから。問題は皮膚の下に埋まった毛だった。薄皮の下で渦を巻くように生えている毛を見たことがある人がいるかもしれない。そう、アレである。アレがそこかしこに生えている? わけだ。ピンセットで皮を捲り、頭を出した毛を毛抜きで抜く。これをひたすらやっていた。
皮膚を破いてそれを抜くのだから、当然出血こともある。そういうわけで、ティッシュと絆創膏は欠かせないアイテムだった。
せっせと毎日毛抜きに勤しんでいた中学時代。確か中学二年のことだったと思う。私の左腋に異変が起きた。
穴が開いている。
針の直径ほどの穴の中には何やら黒い影。毛だ。
穴が開いたことはもちろん初めてで、若干戸惑いはした。が、その穴の中に毛が埋まっているのなら、ソイツは是非とも抜きたい。私は愛用のピンセットをその穴の中に突っ込んだ。
驚くことにピンセットの先はどこまでも入っていく。表皮近くに埋まっているいつもの毛とはわけが違うようで、穴の中の毛は大分深いところにいるようだった。だからどこまでもピンセットを突っ込んだ。不思議と痛みはなかった。
出血しては止血しつつ、ピンセットの先で掴んだ毛を引っこ抜いみると、あらビックリ。一センチ半はあるであろう長さの毛とのご対面だった。こんなに長いのを見るのは初めてで、こういうこともあるんだなぁ……程度に『感心』したことを今でも鮮明に覚えている。
その後も続けて毛を抜いていると、穴から血が混じり黄色に濁った液体が出ていることに気付く。ティッシュで拭いても絶え間なく流れ出る。
今日はこの程度にしておいてやろう。私は穴を絆創膏で蓋して日常生活へ戻っていった。
数日は絆創膏がびっしり血で汚れたが、それも数日したら落ち着いた。しばらくして穴の中を覗くとまた毛が生えているではないか。毛が生えるたびに私は血に塗れながら穴の中から毛を引っこ抜いた。それがいつしか日常になっていった。
今思い返せば、『毛が埋まって膿が溜まる病』こと毛(もう)巣(そう)洞(どう)との初対面はここだった。穴の中に毛が埋まっていて、抜くと血と黄濁した液体――膿が出る。当時はこれが病気であることを知らなかった。だから皮膚科にも行かず放っておいた。
後にこの病気のせいで一年に三回の全身麻酔での手術を経験することになるとは知らずに――。
これは一年に渡る高月院四葩と毛巣洞との闘いの記録と身の上話である。数年前のことを思い出しながら筆を執っているため、一部事実とは違うこともあるかもしれない。しかし、毛巣洞の辛さとそれに面した時の気持ちに偽りはない。
これを頭の片隅に置いて、この闘病記を読み進めてもらいたい。
サンプル②『本編第2章 尾てい骨が痛い』
高校に入学して一年が過ぎ、二年目の夏を迎えた頃だった。
なんだか尾てい骨が痛い。
当時最寄り駅まで自転車通学だった私。お尻の骨が痛いから、サドルに座るのも言わずもがなキツイ。
その痛みは中学時代に尾てい骨を骨折した時の痛みに近かった。しかし、骨は無事にひっついたはずだし、尻もちも最近はついていないから骨に異常があるとは思えない。でも、普通に座れないほどお尻が痛い。
母に白い目で見られながら無理矢理最寄り駅までバスで行くことにし、授業中も一人だけ立って話を聞いていた。
あまりに尾てい骨が痛いと騒ぐものだから、母は仕方なく私を整形外科に連れていった。レントゲンを撮るが、骨が折れている様子はない。ただの坐骨神経痛だと言われ、“何事もなかった”ことを怒られる。こんなに痛いのに何もないのはおかしいだろ、と思いつつ数ヶ月を過ごすと、痛みは自然と消えていった。それから尾てい骨が痛むことは度々あったが、その度坐骨神経痛だと思い込んでいた。
そして四年後の冬。私は大学三年生だった。ボスと付き合い出してから二年が経った頃、ヤツがやってきた。
あ、尾てい骨が痛い。
出たな、坐骨神経痛。でも、今回の痛みは少し違う。座れないのは前と同じだが、今回は歩くと尾てい骨に響く。寝返りを打つたびに痛くて起きる。なんだか訳が違うかもしれない。
直感的に「お尻に何かできているのでは?」と思い、ボスにチェックしてもらうことにした。
スマホライトでお尻を照らしながら、谷間を広げられつつ痛みを我慢して。するとボスは不思議なことを言い始めた。
「姐さん、穴が開いてる」
「穴はそりゃ開いてるでしょ」
「違う、肛門の上、谷間に四つ開いてる」
「四つ!?」
肛門の上に四つ穴が開いているらしい。え、どういうこと?
「肛門のどれくらい上にあるの」
「この辺」
ボスが穴のある位置――肛門の五センチくらい上を押した。
「あ"!」
尾てい骨に激痛が走る。痛いとも言えず、その場でのたうち回る。その振動が響いて痛くてさらに悶絶。
「ちょっと待って、写真撮るから落ち着いて」
痛みに震えながらも上手く写真を撮れるようにじっとする。半ケツを出して婚約者に写真を撮られる人間がどこにいるだろうかと想像すると、なんだか面白くなってきた。
痛みに耐えながら撮ってもらった写真を見ると、確かに空いている、穴が。四つのうち一箇所からは膿のようなものが出ているのも分かる。
なぜ穴が空いているのか。思い当たる節は全くない。私自身がお尻に穴を開けるわけがないし、外部からの刺激で穴が空いたとも考えづらい。
「なんだァ……?」
ボスと顔を見合わせて、お互いスマホを取り出す。調べるのは『尾てい骨 痛み 肛門の上に穴』。軽快にスマホの画面をタップして、検索してみると……。
「モウソウドウ?」
毛巣洞。一番上に表示されたホームページのタイトルにそう書かれていた。全く聞いたことのない病名。そのホームページに飛んでみる。
お尻にできる毛巣洞は、主に肛門の少し上(仙尾骨部正中線上)の皮膚に生じる小さな穴で、中には毛を含んでいます。長時間の運転などで座っている時間が長く、かつ多毛の男性のお尻によく生じますが、男女ともに発症します。お尻以外にも腋(わき)などに生じます。原因について、以前は先天説と後天説が対立して論じられてきましたが、現在は体毛が後天的に皮膚に刺入ことによって生じると考えられています。普段は無症状ですが、感染が起こると痛みや腫れが生じたり、膿が出てきたりし、痔瘻(じろう)や化膿した皮膚腫瘍と間違えられることがあります。
書かれていた文章を音読する。調べていくうちに、どうやらこの毛巣洞はマイナーな病気であることが判明する。
スマホを覗き見たボスが、『毛巣洞』について更にリサーチしていく。
毛巣洞は、臀部に生えている毛が皮膚の下に膿瘍(膿のたまり)を作る病気です。多くは臀部正中上部の割れ目に小さな穴と、その下に触れる膿のしこりとして認識されます。多くは体毛の濃い男性に認められ、タクシーやトラックの運転手など、長時間座位で過ごす人に多く発症します。感染を繰り返さなければ問題ないのですが、長期に感染を繰り返していると、有棘細胞癌という癌が発生する場合があり、注意が必要です。
「うへぇ、放っとくとガンになるのか……」
サラッと恐ろしいことが書いてある。ならば、早く病院に行くほかないではないか。
今日は一月二日。クリニックやかかりつけの日赤病院はやっていないし、しかも夜だ。診療が始まる四日までなんとか我慢して、朝イチで日赤へ駆け込もう。
そういう結論に落ち着き、その日は寝ることにした。翌日、尻が大変なことになっているとは露知らず――。
最後に
いかがでしたでしょうか。
紙本本編では、病院食レビューや筆者個人の身の上話を交えながら、毛巣洞という病気の診断から完治するまでの一年間の闘いを展開しています。
「毛巣洞って何? どんな病気なの?」という人から「今度毛巣洞で手術することになったけど、どんな手術になるのか心配……」という人まで、あらゆる方が楽しめる、参考になる闘病記となっています。
筆者の数奇な1年間を是非ご覧ください!