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ニセ・ザッハートルテ・タルト・モドキ


#このレシピが好き

 かつての私は、ザッハートルテが食べたいと思い立ちました。
 あのチョコレートそのもののような濃厚さ、かつ、あんずジャムの効いたケーキを。

 しかし、ここで難題が。
 私はたいへんズボラなのです。
 ザッハー生地は、切るのが面倒で作りたくないです。
 あのツヤツヤしたチョココーティングも、片づけが面倒なのでやりたくないです。
 でもザッハートルテが食べたいです。
 なお、近所のケーキ屋にはザッハートルテはありません。

 そのような考えからたどり着いた妥協案。
 それが、『ザッハートルテタルトモドキ』です。
 正確にはザッハートルテモドキタルトだと思います。
 しかし前者の方が語感がいいので。

 レシピは簡単です

ザッハートルテタルトモドキp1
ザッハートルテタルトモドキp2

 タルトを作り
 あんずジャムを塗り
 ザッハー生地を入れ
 チョコでコーティング。
 という4段階。
 タルトを器にすれば、ザッハー生地を切る必要も、コーティングのチョコがこぼれる心配もありません。
 さすがですね、私。

 だがしかし。
 私のズボラな精神を舐めてはいけません。

 このザッハートルテタルトモドキ、失敗しました。
 失敗原因は主に三つ。
 第一に、タルト生地を寝かせなかったこと。
 第二に、ザッハー生地に小麦粉を入れ忘れたこと。
 第三に、タルトの底が浅かったこと。
 です。

 バターを常温に戻すことと同じくらいに、生地を寝かせることができた試しがありません。
 なぜならばズボラなので。
 物によっては何時間かかるのか分からないことに時間をかけたくない、とズボラな私はこの工程を無視します。
 そして失敗します。
 タルト生地を寝かせずに焼いたことで、そもそもの、タルトを器にする、という前提が崩れたのです。

 初手で失敗したと気づいていた私ですが、しかし、引き返すことはありません。
 ズボラなので。

 そして前進を進めるがまま着手したザッハー生地。
 材料が若干多かったり、砂糖を分割したり、メレンゲを泡立てたり。
 ええ、いちいち工程を確認しません、ズボラなので。
 そして忘れました、小麦粉を入れることを。
 オーブンに入れ、振り返った先、量りの上に忘れ去られていた
小麦粉。
 
 でも大丈夫。
 なぜなら、小麦粉抜きのチョコケーキ、そんなお菓子があるので。
 その名も『トルタ・カプレーゼ』。
 イタリアのお菓子だそうです。
 材料も、バター、砂糖、チョコ、卵、と小麦粉抜きのザッハー生地とほぼ同じです。
 問題ありませんね。

 そんな感じで、どうにかなる精神の私は突き進みます。

 ラストはチョココーティング。
 しかし私は焼き上がったタルト(withザッハー生地小麦粉抜き)を見て察しました。
 深さが足りない。
 足りないのです。手元の大量のチョココーティングを入れるには。
 そもそも、寝かせずにタルトを焼いたことで、底に生地が寄ってしまい浅いタルトに。
 そしてザッハー生地を入れたことで、浅い底はさらに浅く。
 なんということでしょう。誰がどう考えてもチョココーティングはこぼれます。
 そして掃除が増えます。
 それを避けたかったというのに。本末転倒。

 しかし運はまだ私を見放していませんでした。
 チョコは温めれば溶け、冷やせば固まります。
 柔らかいチョココーティングも然り、冷やせば粘度も高くなります。
 つまり、冷やしながら注げばこぼれないのです。

 さすがの切り返しですね。最初からちゃんとしてれば、こんなてんやわんやしなくて済んだのですが。
 というか普通にザッハートルテを買ってくればよかったのですが。

 こうして完成したザッハートルテタルトモドキ。
 いいえ、材料が抜けているので、ニセザッハートルテタルトモドキ。

 今度こそしっかり一晩、冷蔵庫で寝かせれば完成です。

 言い忘れていましたが、我が家はかつて大家族でした。
 ザッハートルテタルトモドキ。もといニセザッハートルテタルトモドキを作っていたときも、三世帯に加え叔父夫婦の9人家族でした。
 特に男性陣は、酸いも甘いも問わずに平らげます。
 冷蔵庫は彼らの食料庫です。

 お察しの方もいらっしゃるでしょう。
 ニセザッハートルテタルトモドキは、明日をむかえることができず、8等分されました。

 ええ、はい。
 翌日、楽しみに起床した私に残されたのは、おいしかったよという言葉と皿にのった欠片。
 残念。

 とはいえ泣き寝入りはしないたちですので、きっかりしっかり勝手に食べた家族からニセザッハートルテタルトモドキのお代はいただきました。
 そのお代で今度こそ、ザッハートルテを食べることができたのです。
 おいしかったです。
 やはりプロが作ったものが一番ですね。

 このように、失敗に失敗を重ねたニセザッハートルテタルトモドキ。
 今振り返れば、このように語れてしまう、かつての楽しい思い出です。

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