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「管理職なりたくありません」をなんとかする

おそらくバブルが崩壊したあたりからではないでしょうか「管理職にはなりたくありません」と言い出す社員が増えてきたのは。

高度成長の勢いのまま突入したバブル。
その頃の管理職は、部下側から見ると余裕があって、たいした仕事もしてないのに結果は部下が出してくれて「良い身分だよなぁ」ぐらいにみられていたかもしれません。(少なくとも私はそう思っていました)

しかしながら、そんな余裕はバブル崩壊の後には消えてしまい、企業の成長が難しくなってきている中で、テクノロジーの変化やそれが生むビジネスプロセスの変化が起こり、21世紀に入ると昭和的な「仕事人間」ではない価値観を持った社員も増えてきたり、ハラスメントに気を使わないといけなかったり、メンタルになる人が出てきたり…
管理職の仕事は複雑で難易度が高く、業務負荷も精神的な負荷も高い仕事になってしまいました。

そんな姿を横目で見ながら、「管理職大変そうだな」「だから、今のままの仕事でいいや」みたくなってしまっているのは、社員の声を拾う調査でも明らかになっています。
パーソル総研やマンパワーグループの調査が代表的な例かもしれません。

私なりにザッとまとめると、管理職になりたくない理由は以下の三つのナラティブになると思っています。
・業務負荷が高く、遅くまで仕事をしないといけないから、プライベートの時間が犠牲になってしまうのが嫌だ
・責任が重く、人間関係で気を使うことも多そう。自分のことだけ考えて仕事をできる方が気楽でいい
・上記二つがあるにも関わらず残業がつかなくなる。現状、収入や処遇面で不満はないので、より良い処遇が必要と思える状態でもない

こんな考え方になってしまっているので、「自分には向いていない」とか「割に合わない」とか「能力的に無理」みたくなってしまい、会社側から「優秀な君にはリーダーとしてさらに大きな仕事を周りを巻き込んでしてもらいたい」と投げかけても「なりたくありません」という答えが返ってくることになります。

管理職希望者を増やす策は機能するか

人事コンサルタントが提供する一般的な「管理職希望者をどうやって増やすか」には、次のようなものがあります。
・管理職の業務内容やマネジメントプロセスを見直す
・一般社員にキャリアを考える機会とキャリアパスを提供する
・評価制度や報酬制度を見直す
・タイムリーに役立つノウハウを教える管理職向け研修を行う
まぁ、簡単に言ってくれるよな、って感じの内容です。それに機能するかというとそんなに効果なかったり、効果が出てくるまでに時間がかかります。

管理職の業務内容見直しやマネジメントプロセスを見直すというのは、業務プロセス自体を見直すことになるのでその影響は管理職だけでなく会社全体に影響します。例えばERPを刷新したり、最近だとAIのbotを導入したり…
移行期には古いプロセスと新しいプロセスが共存することにもなるので、管理職のやることは減るどころか下手したら倍になってしまいます。必要なのは見直すことではなく、単純に何かをやめることです。

一般社員へのキャリア研修やキャリアプラン作成も、管理職になることを望んでいない人にやっても効果が薄いでしょう。
召集かかった時点で引いてしまってて「やらされ感」満載の参加者に「管理職なりたい」と思わせるのは至難の業です。少なくともそこを社外の講師に頼ってはダメでしょう。なりたくないと思っていた人が成功するまでのストーリーを語るような工夫が必要です。
あとは「なりたくない」まで行ってない人たちに行うのであれば効果はあるかもしれませんね。

評価・報酬を見直す、ついても一考が必要です。
これからインフレが進むとまた変わってくるのかもしれませんが、昔のように車が欲しいとかマイホームが欲しいみたいな価値観のもとでの報酬制度は機能しなさそうです。
それよりも、働き方の自由度や裁量、例えばリモートワークやワーケーションが自由にできるとか、秘書やコーチがつくぐらいの方が魅力的に映るのではないでしょうか。

そして研修
効果がないとまでは言いませんけれど、丁寧に一人一人に最適化したものを提供する必要があります。能力も個性も現代ではかなり人によって異なっていますし、それぞれが知識や能力を必要とする時期も一様ではありません。
なので研修の前にまずアセスメントでしょう。その結果に基づいて提供する研修の内容と時期を最適化することが必要です。それはおそらく集合研修よりもeLearningの方が向いているかもしれません。それと日々の相談相手、ですね。

これらの策はどれも人事が考えるようなものです。上手くやればそれなりの効果は上げるでしょうけれど、結果が出てくるまでには時間もかかるでしょう。
でも、これらの人事的な施策よりもおそらくはるかに効果があり、効果も早く現れる方法があると私は考えています。

管理職の魅力を作り出す

そんなに難しいことを考えているわけではありません。
管理職になりたくないのは、管理職が魅力的ではないから。
だとしたら魅力を作り出せば良いのです。ここでいう魅力とはポジションや金銭といった物理的なものではありません。もっと感情的なものです。

キーワードは三つ。
簡単、楽しい、カッコいい。
これを管理職のナラティブに組み込むことが重要です。
具体的には二つのアプローチがあります。

一つ目は、マネジャーが簡単に、楽しそうに、カッコよく仕事してる状態を作り出すことです。
それってロールモデル?、と言えばそうかもしれません。ただちょっと違うかなと思うのは「苦労してそうできるようになった」というストーリーは要らない、というところでしょう。実際に簡単に楽しく仕事できるようなやり方を組織として許容することの方を指しています。
言い方を変えると型破りな管理職を許す組織の器量がネガティブな管理職イメージを刷新することにつながるということです。

そして、そうなること以上にひょっとしたら大事なのが、それが周りから見えるようにすること。楽しそうに仕事している様子だけでなく、どうやって楽しく仕事してるのかのノウハウまでも開示してしてしまうことです。
みてる側からすると「なるほど!そういうやり方があるのか」とか「そう考えれば面白くなってくるかも!」とコピーできるようにするわけです。

二つ目は、マネジャーよりも自分が簡単に、楽しそうに、カッコよく仕事できる状態を作り出すことです。
頼りのない上司を見ていると「そこはこうやればいいのに」とか「自分がやればもっと早くできるのに」って思う場面ってありませんか?
「あいつになど任せておけない」みたいに思い、「自分のため、みんなのために自分が代わってやろう」となればそれが管理職になるモチベーションにもなるでしょう。

ここでとっても大事なのは、頼りのない上司が部下にどう対応するか、です。
ポジションパワーで理に合わないことをやらせたりしてたらアウトですね。下手したら会社を辞めてしまいかねない。
それよりも部下を信頼し、頼って任せて、ちゃんとできたら「ありがとう、助かるよ」とちゃんと声をかけて承認をすること。「悪いねぇ、私がもっとちゃんと仕事できるようにならなくちゃだね」と、自分よりも相手に能力があることを仄めかすような言い方をするとさらに良いかもしれません。
あ、でも、これは上司と部下の関係性が悪いと裏目に出ますので気をつけて。


どうでしょうか?
人事的な施策は仕組みでなんとかしようとしているわけなのですけれど、それで人の気持ちが動くのかというとそうではないのかなと私は考えています。

それよりも、「管理職なりたい!」って気持ちが動くような何か。
それも、お金や福利厚生といった外発的な動機ではなく、内発的な動機を作り出すこと、エモーショナルにさせることの方が効果があるのではないでしょうか。

そっちの方が大変そうに見えるって?
では、まずあなた自身がそうなってみるというのはどうでしょう?

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いたる | 外資系人事の独り言
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