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何が「操作される自分」を作るか

先日、Tristan Harrisという人がオンラインで講演をしているところで、Attention Economyという言葉を初めて聞きました。このTristan Harrisは数年前に2回ほどTEDでも講演をしている人で、GoogleでProduct Manager(マーケティングの製品担当みたいなものですね)をやっていた人で倫理担当でもあった彼は、Tech企業が人の心を乗っ取ることを防止するためのNPOを立ち上げている人物でもあります。

TEDの講演は私たちが如何に自分たちの貴重な時間を大して大切でもないものに費やしてしまっているのかについて意識を向けることの重要性を説いています。今回はそこから3年ほど経って改めて彼の思うところが繰り返された形でしたが、講演を聴きながら思うところがあったので、つらつらと書いてみます。

今やどこの企業もやっている注意獲得競争

SNSや検索エンジンが広告収入によるモデルでビジネスを成立させているのは私たち皆が認識しているところだと思います。自分のところのサイトにできるだけきてもらい長く留まってもらおうとしていますし、PageViewやサイト内にどれだけ滞在したかどのページからやってきてどのページへと移っていくか等ウェブサイトの分析はGoogleやFacebookのようなTech企業でなくても、今やどこでやっていることでしょう。

SNSやニュースサイトは広告収入がメインなので、サイトの分析といった受動的なアクションだけでなく積極的に視聴者の注意や関心を取りに行きます。今まではサイトに来なければそこからの誘導はなかったけれど、テクノロジーの進化で能動的に視聴者に働きかけるようになってきました。

例としては、スマートフォンに来る「通知(Notification)」であり、SNSや動画ストリーミングに入ってくる「おすすめ」が挙げられます。多くの人がスマートフォンをポケットに入れている現代において、「通知」は自分の時間への「割り込み」となりますし、「おすすめ」は不要な時間への「囚われ」を意味することになるでしょう。

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情報量がどんどん多くなる中で、私たちの時間は限られています。その限られた時間を情報提供者側が獲得する競争、いわば注意獲得競争(Attention War)が起きているのではないでしょうか。

「獲得」から「操作」へ

Tristan Harrisはこの注意獲得戦争がどんどんエスカレートしていて、人間が動物的に反応してしまうような注意喚起が行うことが可能だし、それが実際起きてきていると警告しています。
動物的な反応とは、爬虫類の脳と呼ばれる大脳辺縁系や脳幹で起きることで、本能的なリアクションや感情的な反応です。理性的な思考の部分の底にある、反応せざるを得ないところに情報を送り込んでいる(割込ませたり、囚われにする)というわけです。

さらには、情報提供側が視聴者をマーケティング的に分析して、ある特定の人たちに選択的に感情的な反応を引き起こす「おすすめ」を送り込むことで、単なる注意の獲得から操作をすることも可能です。
これは、いわゆるフィッシングのように情報を抜き取ることではありませんけれど、それをしていなくても私たちの貴重な時間の抜き取りをしていることになります。

これができてしまうのだということにTristanは警鐘を鳴らし、それを防止するための策として3つ挙げています。
一つは、自分たちは簡単に操られてしまうのだという認識を持つこと。
二つ目は、情報を送る側が高い倫理観を持ち、受け手側との同意がない情報を流さないようにすること。
三つ目が、経験したくないことに時間を割くのではなく、価値のあることに時間を割くようにすること。すなわち「価値ある時間」への集中です。

「通知」や「おすすめ」など情報提供者側の手管に操られて、中身のないやりとりをしてしまっていないか。それに気づいてそこから抜け出そうというのがポイントということです。

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操作される自分を作り出している自分

と、ここまでがTristan  Harrisの言ってきたことですが、ふと思ったのは、情報提供者側だけが操作をしているわけではないのでは、ということでした。
「通知」や「おすすめ」の機能は切ることができますし、スイッチを入れていたとしても無視することもできます。その情報を受け取る時間というのは0にはできませんが、そこからの行動には選択の余地があるということです。

むしろ私は、この「通知」や「おすすめ」の機能は、過度の集中による視野狭窄や情報の偏りの予防に役立つのではないかと考えています。具体的に私の例を挙げて考えてみましょう。

私はFacebookをやっていますが、個人の興味が人材開発や組織開発に向いているのでそれが縁で繋がっている人がほとんどです。意識的に会社や仕事関係の人とはFacebookでつながらないようにしています。
Facebook上でやりとりをしたり、そこで繋がった仲間と会話をしていることになれるとそれが自分の世界の常識になってゆき、会社で話している内容とのレベル感の差やギャップを感じること(プラスのギャップもマイナスのギャップもあります)がしばしばあります。

これを分かっていることはとても大切なことだと私は考えています。つまり、自分でも気づかないうちに自分の中に情報の偏りができていること、そしてその偏りにより自分で自分を洗脳をしてしまっている危険性があるということです。
Platform側はそれと助けているだけで、彼らが洗脳しようとしているわけではないとも言えます。要するに、自分自身が洗脳されてしまうような情報の取り方に無意識に嵌ってしまっているのです。

マインドフルネスという言葉が語られるようになって長いですけれど、マインドフルになる一つ前の段階で「アウェアネス(Awareness)」があり、こちらとAttentionが密接な関係を持っていると私は考えています。自分が今どんな状態にあるのかについて知っているか、がアウェアネスの私の定義です。
自分の状態が分かっていれば自分をコントロールができます。コントロールした先にあるのは意識の集中であり、マインドフルネスなのではないでしょうか。

Tristan  HarrisはTEDの講演の中でも「人生には注意と時間しかない」と言っています。時間は誰にでも平等にあり有効に使えるかどうかはその人次第です。決してFacebookやNetflixのせいにはできないと思います。

無限に近いほどの情報の海の中で、なぜ自分はそれに注意を惹かれたのかを考えるために立ち止まり、自分の意志としての反応の選択を行うのが大切なのだなと思います。それは簡単なことではないですけれど、ね。

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