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頼ること、甘えること。人の手を借りること。
「人の力を頼ることができない」「頼り方がわからない」
そんな悩みを持っている人の話をVoicyの放送で聞きました。
一瞬、結果的に頼らないで済んでいるのであれば、それがどうして悩みになるのだろうと思いました。
しかし、相談者の人はそれが相手とのフラットの関係を保てないとか、自分で自分の首を絞めているのではないか、とモヤモヤしているようでした。
これは何が起きているのだろうか?
ちょっと考え始めてみたら、これって実は結構深い話なんだなと分かってきました。
自己責任と遠慮
人に頼れないというのには、いくつか理由があるようです。
大きく分けると、自己責任と他者への遠慮、のように聞こえました。
自己責任というのは、困っていることや悩んでいることはまず自分でできることをちゃんとやってから人に頼るものであり、自分できるのに人に頼むのは迷惑をかけてしまうことになるのだ、という考え方です。
プロ意識やプライドのようなものにそれが繋げられていると「自分はプロなんだから人に頼ったらカッコ悪い」みたいにもなるのかもしれません。
他者への遠慮というのは、自分が困っていて相談したくしても、相手も色々忙しそうだから今はちょっと頼むのやめておこうかな、と相手の状況を鑑みて自分の欲求を抑えて我慢をしているパターンのようです。
いずれの場合も、人に頼ることに対して、迷惑をかけるとか自分の責任を果たしていないような罪悪感を感じることがないよう、頼まないで自分でやっているふうに思えます。
でも、ちょっと待てよと思います。
前述しましたけれど、人に迷惑をかけずになんとか自分でできているのであれば、問題ないじゃないか。それのどこがモヤモヤするのだろうか、と。
自分に無理を課しているのではないか、とか。
孤独感を感じてしまっているから、とか。
そういうのもあるかもしれませけれど、なんかもっと根本的なところに何かがありそうだ、と。
なぜ頼らないのかをもっと素直に考えると、それは、
人を頼らないでもできるからではないか、と。
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できると頼るのマトリクス
ちょっと何が言いたいのか分かりにくいかもしれませんので、二軸のマトリクスで整理してみましょう。
自分にできること、できないこと
人に頼ること、頼らないこと
という二軸のマトリクスを描くと下の図のようになります。
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番号振った順に見てゆきましょうか。
ひとつめの象限は、自分できることで人に頼らないこと。
これは自分にできるから人に頼る必要がないということになりますから、いささか当たり前のように感じるかもしれないですね。
それは、自分がやりたいことかもしれないですし、やりたくないけれど誰かに頼まれたことであるかもしれません。
いずれにしても自分のタスクとなった以上、それが自分ができることである限りは、人に頼らずに自分でやることで責任を果たすようなイメージではないでしょうか。
二つめの象限は、自分できないことで人に頼らないこと。
ここは自分の意思の問題かもしれませんけれど、自分でやろうと決めたらそれが今はできることではなくても勉強したりスキルアップをしてやり遂げようとするということになってくるかと思います。
あるいは、自分はどうしてもやりたいのだけれど、他の人やそれをやることを支持してくれない。だから自分でなんとかするのだということかもしれませんね。
三つめの象限は、自分でできないことで人に頼ること。
自分にはできることではないので、人の力を借りに行くのがここです。
ここも極めて自然な感じかもしれませんし、頼る相手との関係が良かったり、こちらが困っていることが伝われば手伝ってくれるかもしれませんし、場合によっては代わりにやってくれるかもしれません。
多様性の高いチームにおけるリーダーは、自分にとってのこの領域において、上手に人に頼んだり巻き込んだりして、自分一人ではできないような大きな仕事を成し遂げたりしている人がいます。
組織体で仕事をしてゆく上においては、このように「できない」と「できる」を上手に繋げてゆくのがリーダーの役割になってくるのではないかなとも思います。
そして、四つめ。自分でできるのに人に頼ること。
自分にできることなのだけれど、人の力に頼るのは無責任なように感じる方もいるかもしれません。
しかし、忙しくてタスクが山のように溜まっていると、やらなくてはいけないしできることでも人に代わりにやってもらわないといけないことはあるでしょう。
一旦引き受けてしまった以上は、忙しかったからできませんでした、では無責任になってしまうので、誰かの力を借りてでも完了させようとするのは決して無責任ではないと思います。もちろん、手を貸してくれる人へのお願いの仕方は注意が必要ですけれど。
また、この領域のタスクは他者に委託することで、その他者にとっての能力開発の機会になることがあり得ます。その場合は自分が忙しくなくても時間があって自分でできても他者にやってもらうということです。
この領域のタスクは自分にできることなので、自分よりも経験の少ない他者に頼んだ場合にコーチングがしやすいです。部下やチームメンバーにやってもらって、自分はコーチに徹することで相手の能力開発になるわけです。
各象限の状況をマトリクスに一言で書き加えると以下のようになりますね。
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自分がやっている仕事や、自分の周りにあるタスクをこのマトリクスの中にプロットしてみると意外な発見が得られます。
具体的には、①の象限にあるものを④に持って行けることがわかってきたり、③の象限で誰かを共に働くうちに②の象限に移ってきたりということが起きることがわかってくるので。
なぜ人に頼ることがないのか?
さて、こうして自分でも書いてきて気づくのは、随所に出てくる「責任」という言葉です。
自分にできるなら自分でやらないと無責任である、とか。
できないことでも自分がやらないといけないなら勉強してでもやらないと無責任である、とか。
責任感の高さゆえに、そう思うし人に頼ることへの抵抗感もあるのでしょう。
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しかし、私はここに少しだけ引っ掛かりを憶えます。
もちろん、責任を果たそうとするその姿勢自体は立派なことだとは思いますけれど。なんか違うのではないか、と。
そんなモヤモヤの中でふと疑問に思ったのは、
ひょっとしたら、自分にできないと思うことに手を出さない人は、人に頼るみたいにはならないのかもしれない…と。
つまり、自分ではできないなと思うことであっても、どうしてもそれをやりたいんだという、ある意味では我儘な思い、あるいはパッションがあって、それを伝えて人を巻き込んで自分にできないことでもやってしまうような象限③のようなことが起きないのではないか、ということです。
言い方を変えると、これは自分ができることしか人に頼めない人は、自分の力以上のことは人と一緒に仕事をしていてもできないということでもあるでしょう。
すぐに人の力を当てにすると「それは甘えだ。まず自分でできるかどうかやらないと」とかの意見が出てくることがよくあります。
言ってることはわかります。
しかし、自分でできるようになってからやるみたいになっていることで機会損失は起きてしまうことはあるわけです。
その意味で「頼る」は「甘え」ではあり得ないのではないかと私は思います。
自分にできないことでもやらないといけないことはある。その時に人の力を動員できるかどうかが「人」ではなく「人間」なのではないでしょうか。
以前、私が誰にも頼ることができずに四人分の仕事をしていた時の話を書きました。
今振り返ると、この時の私は自分にできないことでも自分にできることにして、誰の力も借りずになんとかするのが責任だと考えていたかもしれません。
しかし、その考えは自分のできることを小さく、遅くしていることでしかなかったことに気づきます。
必要だったのは、やらねばならないことを自分で抱え込まずに他者と共有し、他者の力を借りれるように巻き込んでゆくことだったというわけです。
自分のやりたいこと、やらなければならないことが他の人にとっても正しいことなのであれば、そこで人の力を頼ることは決して甘えでも恥ずかしいことでもないでしょう。
堂々と頼って良いのではないでしょうか。
それができることは、あなた自身の、あなたと相手との関係性の、さらには相手の可能性を拡張することにもなるわけですから。
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