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マインドフルネス認知療法を受けてみた

2024年8月から10月にかけての約2ヶ月半、マインドフルネス認知療法 MBCT-Dの8週間プログラムを受講しました。

慢性的な疼痛症状は治療の決め手に欠け、長期間に渡り症状による苦痛を受け続けてしまいます。その結果、現在の不調だけでなく、将来的な不安を抱えてしまい抑うつ症状の併発すら起こす可能性があります。また、痛みを持つことに対する認知がより苦痛を強め、日常生活を辛く苦しいものへと変えてしてしまうかもしれません。
本プログラムの受講により、うつのみならず難治性慢性疼痛における”認知の歪み”へのアプローチの学びを目的として、実際に体験した経験をまとめてみました。

マインドフルネス認知療法とは

MBCT-D:Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Depressionとは第3世代の心理療法である認知療法とマインドフルネスの両方の特徴を持ち、うつ病の寛解状態からの再発防止を目的として、1991年にWilliams, J. M. G.、Teasdale, J. D. およびSegal, Z. V. らによって開発されたマインドフルネスプログラムです。

まず、著者らが行なったのは、注意の訓練という要素を認知療法に取り入れることであった。次に、「治療」という枠組みを放棄した。それは思考や感情を変えようとせず、それに気づいたままにしておくというマインドフルネス・アプローチを十分に機能させるためである。

Williams, J. M. G.、Teasdale, J. D. 、Segal, Z. V. /マインドフルネス認知療法


マインドフルネス認知療法 Williams, J. M. G.・Teasdale, J. D. ・越川房子 監訳/北大路書房

認知療法とマインドフルネスという異なるアプローチの心理療法をどのように関連づけられ、そして統合されたのでしょうか。
そのヒントはあとがきに下記のように著されています。

認知療法では、現象の捉え方を変えることを目指す。…どのような心理療法でもそれが目指しているのは、クライエントの体験過程の認知をより適応的な方向へ変化させることであるといえる。
この認知の変化を、言語という媒介を用いずに直接行う技法、それこそがマインドフルネス瞑想である。

Williams, J. M. G.、Teasdale, J. D. 、Segal, Z. V. /マインドフルネス認知療法

認知療法、マインドフルネスはそれぞれに確立されたメソッドが存在し、それ単体でも十分に治療効果がエビデンスとともに示されています。
これら二つの心理療法が統合された8週間プログラムはどんなものなのか、実際に体験をしてみました。

私はドイツに本部を置くIMA:Institute for Mindfulness-Based Approachesと提携しているインターナショナル・マインドフルネスセンター・ジャパン(IMCJ)の認定講師からMBSRを受講しました。

第1週  気づきと自動操縦
     ・ 気づきを増やし自動的に反応をするのではなく選択肢を持ち対応する
第2週  頭で生きること
     ・ DoingモードからBeingモードへ気づきを深めマインドフルになる
第3週  散漫な心をまとめる
     ・ 自分を取り戻しいかなる体験もオープンな気持ちで接する
第4週  嫌悪を認識する
     ・ 失望や後悔の気持ちがそこにあることを許す 
第5週  許容すること/そのままにすること
     ・ 望まない経験に対しても受容する
第6週  思考は事実ではない  リトリートデー
     ・ 思考を事実と考える頻度を減らし、思考を思考として見る
第7週  どうしたら最善の自己ケアができるのか
     ・ 喜びの得られる活動とマスタリー感(うまくいった感じ)を得る
第8週  新たに学んだことを維持し広げる
     ・ 学んだことを振り返り、再発を予防する計画を考える

週に1回のセッションの際にはその週のエクササイズや課題が提示され、その後、次回セッションまでの1週間はその課題を毎日実践します。
これがマインドフルな体験の深化と習慣化につながります。
MBCT-Dプログラムは、セッションを重ねプログラムが進むにつれて、自身の持つポジティブな側面ばかりではなく、ネガティブな側面やそのリスクを見つめる機会となりました。そして同時にその対処について学びを深めていきます。

実際にセッションを受けてみた感想

MBCT-D 第1週目
プログラム構成全体の理解とボディスキャン、レーズンエクササイズを体験しました。

レーズンエクササイズはマインドフルネス実践の基礎となる”気づき”を体感するエクササイズです。レーズンを食べる行為を初めて体験するように、色や香り、触覚や味覚、そして食べる時の音まで感じ、五感をフルに使い味わいます。
私はレーズンが手元になかったため、梅干しで代用しましたが少し刺激が強すぎたようです。

ボディスキャンでは身体感覚の気づきを探求し、注意を向け続け集中力を保つこと、注意の柔軟性を養い多面的な気づきから選択肢は一つではないことに気づくことを学びました。

MBCT-D 第2週目
受講時は入院中であったため、セッションへはチャットによる筆談で参加をしました。

ボディスキャンに加え15分間程度の静座による呼吸瞑想を行い、気づきに加え思考や感情に惑わされない心を養うトレーニングを行いました。思考や感情が湧き上がった際には、アンカー(心を留める錨)とした呼吸に戻ることでそれらに引き摺られない態度を目指すのですが、つい引き摺られてしまったり、何度も思考とアンカーを行き来するなど対処は難しく感じました。しかし、思考や感情が湧き上がることやアンカーに何度も戻ることは自然なことであり、その事実だけを受け止めることが”今この瞬間に気づく”トレーニングとなります。

エクササイズでは、”道路を挟んだ向こう側に知人を見つけた場面で、声をかけたけど気づいてもらえなかったこと”を想定して、どのような感情や思考が起こったかをシェアし、自身の思考の癖を体感しました。

MBCT-D 第3週目
宿題では”嬉しい経験カレンダー”として嬉しかった経験は何か、その時の感情や思考、そして改めて記録をしたときの思考などを参加者でシェアし、さまざまな思考や感情の反応などを共有しました。

また、見る/聴く練習による気づきの多面化や、40分間程度の静座瞑想により呼吸へ気づきを向け、集中力と思考や感情に引き摺られない態度の練習を行いました。

さらに、”今の状態を知り、アンカーを意識し、今ここにいる自分自身の全体性を感じること”を養う3Step呼吸法を学び、さまざまな感覚や思考などで散漫となる自分自身をまとめていくトレーニングも行いました。
しかし、自分自身の全体性を感じることは難しく、以降も日々の練習を続け実感を得るまで時間がかかりました。

MBCT-D 第4週目
宿題では”不快な経験カレンダー”として不快だった経験は何か、その時の感情や思考、そして改めて記録をしたときの思考などを参加者でシェアし、さまざまな思考や感情の反応などを共有しました。
いよいよネガティブな側面との対峙が始まりました。

3Step呼吸法では不快を感じたときに行う”対処用”が用意され、不快なときの思考や感情などにラベリングをし、その兆候に気づき認知することを学びました。この気づきと認知こそがうつの再発リスクのサインであり、大切なポイントであると理解しました。

新たな実践としてマインドフル・ウォーキングも学びました。
歩く行為を注意深くみて見ると、認識、動作、感覚が手順のように繰り返されていくことに気づきます。思考だけでなく、歩くという動作も無意識に行うことができてしまう、自動操縦状態とはこういうことなのだと気づきを得ました。

MBCT-D 第5週目
エクササイズでは辛いときにどんなことをするか?について参加者で意見を出し合いました。それは”寝逃げ”のような逃避であったり、回避であったりなど、さまざまな対処があげられました。しかし、それらの対処法では辛さは解決されず何度も繰り返してしまいます。その状態を図示すると、”辛いとき”を中心に対処方法が花びらのように表されることから”悪循環の花”と呼ばれるそうです。

辛さなどのネガティブな感情や思考に抵抗しようと足掻くと、うつの再発に関連する自動的で習慣的なパターンへ急速に進んでしまう。むしろ最初は難しいかもしれないけど、受容する・させておく・そのままでいる態度でそれらの感情や思考に接することで、反応の連鎖を断ち切ることができると学びました。
そしてこれは自身が痛みに対して、マインドフルネスの実践を通じて実感してきた態度と同じでした。

MBCT-D 第6週目+リトリートデー
エクササイズでは、楽しい気分の時と不快な気分の時の”同僚の対応がそっけなかった場面”における感情と思考の反応ついて意見を出し合いました。その場面に対する反応はもちろん個人差はありましたが、楽しい/不快な気分による反応でも違いが見られました。しかしその同僚(想定上)の態度は自体は何も変わっておらず、こちらが勝手にその時の気分で反応した感情や思考であり、”事実でもなんでもない”想像の産物にすぎないと再認識する、興味深い体験となりました。
今まではこのようなことは数知れず起こっていたことは想像に難くなく、まるで一人相撲のように、無意味に辛さを感じていたことも多々あったのではと気付かされました。

今回のリトリートデーは、初めて自宅からのフルリモートでの参加となりました。朝9時から夕方4時まで瞑想やムーブメントなどに時間を費やす貴重な静かな時間として過ごし、今までの実践を振り返りました。

MBCT-D 第7週目
本セッションのエクササイズも興味深いものでした。1日の活動を列挙していき、それらに対して、楽しみ:P、達成感:M、栄養の活動:↑、消耗の活動:↓、とラベルを振っていきました。結果を見渡して見ると、生活の中には多くのポジティブな活動(P・M・↑)があることがわかり、それらを増やし、伸ばしていくことが自己ケアにつながると実感しました。
そしてネガティブな活動(↓)はうつ再発のきっかけとなりうるものと認識し、対処を考えることで再発予防の行動などへ繋げられます。

宿題として、賢くうつと付き合うための計画立案(大袈裟なものではなく対処方法のリストアップなど)が提示され、今までのセッションを振り返りながら、危ない兆候のシグナル、対処方法、リスクの低減など再発予防に関する考えをまとめていきました。

MBCT-D 第8週目
最終セッションでは今までの振り返りをおこない。ポイントとなる事項の再確認が行われました。
また、”人生の処方箋”としてリスクを感じる時のシグナルや、助けになる/ならないこと、大切にしたい態度、マインドフルネスを思い出し続けていくための方策をまとめていきました。

マインドフルネスプログラムを終了する際には、マインドフルな態度を忘れないようにするための象徴として、海岸で拾った瑪瑙をいつも挙げています。瑪瑙の石言葉は「調和・共生・健康」です。マインドフルな態度で、自身の慢性疼痛という困難さと調和・共生し、治る見込みのない痛み以外はせめて健康でと願っています。

MBCT-D 8週間を終えて

MBCT-Dを実際に体験してみて、非常に難しい印象を持ちました。
それは認知療法、マインドフルネス共に独立し確立した心理療法であり、各々の目的やアプローチは理解できるものの、統合した結果としての相乗効果や連携をプログラムの受講中に理解することができずにいました。
これは今まで受講してきたMBSRやMBPMでは感じられなかった感想です。

しかし、本記事をまとめるにあたりテキスト及び「マインドフルネス認知療法」を読み進めていくうちに、すっきりと腹落ちしていなかった相乗効果や連携効果や目的を下記のように理解できるようになってきました。

 ① 認知療法においてその効果の長期化には”脱中心化”が効果的である
  → 自分と相手では見えている世界や考え方などが異なることを理解し、
    自己中心的な認識から抜け出すことが大切である

 ② マインドフルネスでは思考は思考に過ぎず事実ではないことを体験する
  → 思考をたんなる思考として認識するという単純な行為が、しばしば思考が
    作り出した歪んだ現実から自由になることができる

 ③ マインドフルネスの実践が”脱中心化”だけでなく他の効果をも期待できる
  → 脱中心化の技術習得だけでなく、気分の低下を自覚する”気づき”の訓練や
    負の思考の逡巡を断ち切る技術までをも可能となる

MBCT-Dプログラムは個人的には非常に複雑で、一通りの実践ではその実力の多くを理解することはできませんでした。しかし、原典である「マインドフルネス認知療法」を読み進め、実践を振り返ることで、プログラム及び各セクションの意図と目的の理解が進めることができました。

MBCT-Dにご興味を持たれたり実践をされた際の戸惑いや疑問などに対して、本記事が何かしらかのご参考となれば幸いに存じます。


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