その職業を引退するとき、どんな表現で伝えるか。
おばんです。
仙台でカメラマンをやっているイタリーです。
たまに通る場所を歩いていると、古くからある時計屋が閉店していた。
営業しているときは窓に「電池交換」の垂れ幕や、中に時計がいくつも見えたので、てっきり時計屋と思いこんでいた。宝石も扱っていたらしい。
「閉店のお知らせ」に記した言葉。
"老兵は去るべし"という覚悟と潔さ。
時計や宝石を扱う上で仕事道具の象徴であった"ピンセット"を置くことで引退を表現するユーモア。
定型文ではなく店主から出てきた言葉と感謝の言葉にグッときた。
長い間お疲れ様でした。
61年もの長い間この土地で営んできたお店がまたひとつ街から消える。
自分は客ではなかったから他人事として聞こえることも承知で、それでも歴史ある店がその地域からなくなることはとても寂しい。
そのうちあっという間に更地になって何かが建って、ここにどんな歴史や物語があったのか誰も思い出せなくなるのだろう。
すでにこの店の隣りにあった駐車場はまた更地になっていた。
きっとこの店の跡地も含めて何かが建つのだろう。
ちょうどその更地の前を歩くおじいさんが、人差し指で空中に四角を描きながら更地を見ていた。
すぐ何事もなかったかのように歩き出したが、あの瞬間、おじいさんはそこに元々何があったか思い出そうとしていた気がする。
何があったかなんて簡単に忘れちゃうからね。
前回の記事でも似たような話題をあげて今回もまたこの過去記事を載せてしまうけど、本当に、本当に、なくなってから撮ろうと思っても遅いんだ。
そしてあっという間に以前の風景が記憶から抜けていく。
自分はそこに少しでも抗うために写真を撮っている部分もある。
この店の前を通るとき、外に出てる独特な観葉植物にいい光が当たる時間帯があったんだよなー。そんな些細な瞬間も撮っておけばなー。などといつものように心残りと後悔に襲われる。
さて、ここからは余談。
そんな出来事をXにポストしたところ
たくさん反応があり、その中で
「自分の職業を引退するならどんな表現になるか」
という考えを巡らす方も多く、それもまた興味深い内容だった。
そもそもこの店主が「道具を置く」という表現を選んだことも、引用元としてはキャンディーズや山口百恵がコンサートでステージ上にマイクを置いて終えた出来事が大きな要因のような気がする。あれが道具を置くことと引退を紐づけた象徴的な出来事であったことには違いない。
そこを読み取ると余計昭和から長く生きた人の表現らしくて、ますます人が見えてグッときてしまった。
その他にも引退を意味するときに使う表現は実に豊富だ。
極端な話し、伝わればなんだってありだ。
「マウンドを去る」
「ユニフォームを脱ぐ」
「スパイクを脱ぐ」
「リングを降りる」
「バッジを外す」
「包丁を置く」
「店を畳む」
「看板を下ろす」などなど。
引退を表現する言葉は無限に作れると思うが新しい表現をあまり探っていないジャンルのような気もする。
引用ポストで見た引退言葉が、初めて見る表現もいくつかあり面白かったので紹介しておく。
「cadソフトを解約」
「マウスを置く」
「ピンバイスを置く」(モデラー)
確かにPCで仕事が完結する人にとっては色々言い換えることができるかもしれない。
カメラマンという自分の領域でいえば
「カメラを止める」
「バッテリーを抜く」
「フォーマットする」
「Adobe を解約する」
「メルカリに三脚とかストロボを売る」
「マップカメラに機材を売る。あれ、買取見積額3%UP優待券どこにしまったっけ。」
ほぼ大喜利だけど、なんとでも言えるなと。
あなたがあなたの仕事を引退するとき、どんな表現ができるか。
少し考えてみると今まで誰も選ばなかった面白い表現が見つかるかもしれない。