#「渡辺有機農園」 渡辺洋志さん
【農業楽】イチから学ぶ有機農業~未来の食卓とこれからの農業~ 担任
いただきます食の楽校 (itadakimasu-school.com)
「現代の働き方には、ストレスがセット。
自分の価値観と合わないと感じていても、人生は過ぎていきます。
自然のもとでは、働く喜びを直に感じられます。
自分だけではもったいない。
この喜びを、次の誰かにつないでいきたい。」
そう語る渡辺さんが、経験ゼロから、有機農業という生き方を手に入れるまでの物語を聞いてみた。
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今より幸せな暮らし方はある
と気付いていた
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関東で最も古い焼き物「笠間焼」で有名な、茨城県笠間市。
農業も盛んで、日本一の栗の産地としても知られる。
「渡辺有機農園」は、その住宅地近くにある。
広さ、約70a。
この地で就農して、8年。
農薬を使わず、地域で手に入る有機物を中心に自家製肥料を作って野菜を育てる。
多品目栽培、季節ごとにとれる野菜を出荷する。
新卒で某ビール会社に入社。
以来20年、営業マンとして働いた。
結婚、離婚を経験し、1人息子と二人三脚の生活。
仕事に生活に、誇りはあった。
けれど「もっと幸せな暮らし、生き方はある」
心の奥で、気づいていた。
2011年。
仙台支社にいた時、東日本大震災に見舞われる。
無事だったものの、想像をはるかに超えた現実を目の当たりにした。
「明日しよう、いずれしよう、はもうやめにしよう。」
日常が明日も続くなんて、奇跡に思えた。
それから3年後、周囲の猛反対を押し切って、1年間の研修の末、渡辺有機農園をスタートさせた。
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野菜は健康の「お守り」
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2人兄弟の末っ子。
男兄弟の食卓は、常に人気は「お肉」。
カニ、ウニ、いくら、贅沢なものも好物。
そんな息子たちに、
母親は「お肉や魚を食べたら、野菜をその何倍も食べなさい」
と、言い聞かせた。
営業職で、毎晩ビールが欠かせない日も、
父親として、子どもを思う毎日にも。
野菜をたくさん摂る。
まるで健康のための「お守り」みたいだった。
おかげで病気しらず、
一人息子はこの春、大学生となった。
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自然が法則
生きる糧を正直につくることの幸せ
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農業は、シンプル。
自然が一番、農家によって忖度もしない。
自然の法則のもと、手をかけてやると、
野菜は、必ず成長する姿を見せてくれる。
旬は美味しく、豊かに実れば感謝しかない。
多くの実りを得ようと知恵を絞るが、
予期せぬことは必ず起きる。
「アブラムシが大量に発生して、どうにもならない翌年、
てんとう虫がたくさん来るようになった。
収穫まであと少しで台風に遭う年もあれば、
理由はわからないけれど、多く、美味しく育つ年もある。」
もちろん、ここまで甘かったわけじゃない。
試行錯誤、軌道にのるまで5年かかった。
「人が、お天道様の下で働かなくなったのは、ここ数十年。
太陽の下では、働く喜びをじかに感じることができる。」
自分だけ幸せなのは、申し訳ない。
そう感じて、昨年から農業を目指す人を受け入れ始めた。
会社で働いていると、ストレスも多い。
たとえ自分と価値観が合っていなくても、放置している内に時間はすぎる。
もし、そう感じていながら、身動きがとれずにいるなら、農業という働き方がある、と伝えて行きたい、と思う。
今の生き方があるのは、師匠がいてくれたから。
その恩を、今度は誰かに受け継いでいく番。
この春には、引退する師匠の後を継いであした有機農園グループの代表に。
太陽のもと働く幸せを、分かち合い、繋いでいくことが、さらなる幸せに通じる気がしている。
(岡志寿子 著)