8/17視聴レポート「美・協業・革新のDNA」
京都大学経営管理大学院 100年続くベンチャーが生まれ育つ都研究会
株式会社細尾は、1200年の伝統を持つ京都の西陣織の老舗。
この細尾家12代目となる細尾真孝氏は、2008年に細尾に入社し、09年から新規事業を担当。帯の技術、素材をベースにしたファブリックを海外に向けて展開し、建築家のピーター・マリノ氏との出会いからディオール、シャネルの店舗に使用されることになった立役者。
まさに起業家として京都、西陣の持つ伝統技術と、自ら培ってきた「美」への取り組み、そして世界的な人々との出会いから次々に革新的なビジネスを生み出していくその原動力や、京都が有するエコシステムとしての仕組みについて、リアル店舗から生中継して語っていただいた濃密な2時間でした。
クリエイティブを追求していく先に、伝統産業である西陣織にその原点を見出した。
前半では、西陣織の家業を起点にイノベーティブな取り組みに次々に挑戦してきた細尾氏のこれまでを語っていただきました。細尾さんの歩み詳細はこちらの記事にも詳しくあります。
音楽活動にクリエイティブの真髄があると挑戦してきた細尾さんがファッションの可能性に気付き、家業である伝統産業にクリエイティブの活路を見出して、継ぐことを決意したそうです。
大きく変わるきっかけとなったのが、パリで細尾の帯を見た建築家ピーター・マリノさんから西陣織で壁紙が作れないか?という打診から。
これまでの西陣織の織機では、壁紙として使える幅を織ることができない。細尾さんは職人と共に織機の開発に挑み、1年以上かけて壁紙としての織物を作り出しました。ここから西陣織のマーケットの幅が大きく開くことになりました。
その後も次々と革新的な取り組みにチャレンジしている細尾さんに、なぜそこまで確信的なことに挑戦できるのか、という問いが会場からの質問にありました。
それを織物に喩えていただいた中での腹落ちした話は、「結局何を実現したいのか」という縦軸がしっかりしていない限り、協業となるパートナーたちの横軸がいくら入っても美しい織物としての結果は生まれない。緩くても織物にならない、ということでした。
新しい物を生み出す時は、ドラえもん状態から
外壁に西陣織を使う、という技術が世界に存在しているのか?という情報はどう得るのか?最初の技術情報を得てからスタートするのか?という質問。
細尾さんの場合はドラえもん状態。つまり、「こんなのあったらいいな」例えば、「西陣織の外壁があったらいいな」からスタートしている。誰もやっていないことだからこそ、妄想ばかり。妄想から始まる。これが独創的なクリエイティブの源。
夢想家は、軸足がブレがちだが、細尾さんの場合は、「織物」という軸足があるから、どれだけ夢想しても立ち戻れるからこそ、強い、というのがパネラー北林功さん。
単に、家業を継ぐことだけではなく、音楽活動にチャレンジしたりといろいろな経験を積んだからこそ、革新を起こせている。
エフェクチュエーションで走っている人。その場合、組織の論理で足を引っ張られたり、という力は働かなかったのか?という質問には、「逆風こそ力になる」とさらりと答えてしまうことが細尾さんの強さではないでしょうか。
ここまでの話を聞いて、「ベンチャー型事業承継」のお手本のような取り組みだということでした。創業型のベンチャーと違い、後継者がこれまでの家業を引き継ぎながら実行するベンチャー的事業は、より難易度が高いということを解き明かし、日本の挑戦する若手後継者たちを応援している一般社団法人ベンチャー型事業承継にとっての好事例の一つでしょう。日本はファミリー企業が多く、後継者には同族をという企業が7割ある一方で、後継者不在率も50%となっている。
しかし、この細尾さんのような取り組みを知らしめることで、家業の後継者だからこそできるイノベーションがあるという可能性を広げることが可能になるはずです。家業という軸足があるからイノベーターとして風を起こせることもあります。
「工芸」と「工業」の融合
トヨタのレクサスに西陣織が採用されたことがようやくオープンになった。工芸でなく工業に入ってきたことが画期的という話題。https://news.yahoo.co.jp/articles/d08a4f05aaeb1708c657fcc8f391e8affdb0886f
エンジニアリング・テクノロジーとBeautyやArtとはかけ離れたもの、と思われているが、織物の歴史を紐解いていけば、織機の進化の歴史。その中でトヨタ自体はもともと織機の会社。結果的に「美」のために工業は発展してきている、とも言える。
京都で100年続くベンチャー(京都で100年はほんの一瞬)まとめ
(細尾さん)1200年の縦糸と横糸はいろんなダイバーシティ(各時代)が折り重ねることで、過去のリファレンスがある。京都の縦糸はその分の厚みがあるのではないか。100年という単位くらい(短いもの)は、京都であれば、考えやすいのではないか。
(北林さん)「美」は人間としての最上位概念。それが京都に通じる縦糸ではないか。それをやって恥ずかしくないか。会社としてその生き様は恥ずかしくないか。我々がやっていることが、100年後1000年後の人たちに「あの人たち美しくないよね」と言われないように、先達から受け継いできた京都の縦軸をピンと張っている中に私たちは立てているのか。
(山本さん)自分の100年の軸はなんなのか。
勝手に自分でまとめてみると、「美」という共通概念の中において、そこに優劣や競争が入る余地はないように思えた。北林さんがおっしゃっているように「美は人間としての最上位概念」という言葉に集約される「美」という共通認識によって、世界は平等と平和を同時に並び立たせることができるのではないか、ということでした。細尾さんの作り出した「美」の世界を堪能しつつ、自分の軸はどこに置くのか、という最後のJOHNAN株式会社 代表取締役 山本さんの言葉に、自らの軸を振り返らざるを得なくなった2時間でした。
追記)今回の研究会は、京都大学経営管理大学院の寄付講座として二期目を迎えるJOHNANの「京都ものづくりバレー構想」によるものです。