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こと置いて

 先日、同性の幼馴染と映画を観に行った。もう見たことがあって、そもそも片道三十分かけていくほどでは無い。でももう一度くらいならと思っていたところだった。

 映画の待ち合わせ時間で様々な話をした。ほとんどがたわいもない話で、その一つ一つを覚えていないが、その時間が人であふれていたけど、確かに濃く楽しい時間だった。

 ただ幼馴染はこう言った。
「川西、結婚したらしいな」
 川西というのは一色が今思えば引いてしまうくらい病的なまでに執着した中学の吹奏楽部で同じだった女子生徒だ。
 
 当時、家庭環境も良くなくて母親が怖いがあまりに顧問に遅くなるからと貸してもらった電話口で敬語で話すほどであった。それが顧問には好感として刺さったわけだが。
 当時、縋れる物が無かった一色は怖い事があると、川西さんと何度も唱えた。川西さんがいるから大丈夫。そう何度も。

 暗示とは恐ろしい。時々、影を思い出す。
 川西を思って、めでたいと一つ言を置く。