ツトムさん―僕は今、お城の前の芝くさの上でこれをか
いてゐます。もう春萌えで、風は春のはじめらしくつよいの
ですが、それとても、冬のつめたさはありません。星によくにた
うすむらさきの、こんぺいとう草の花がきれいです。ひるやすみ
には、よくこゝへきて、日和ぼつこをするのです。ひるごろ丸ビ
ルへおいでになるやうなことがあったらおより下さい。
陽子さんの詩はまことに美しい、やさしい詩です。いくどよ
んでも、いゝものです。あなたもあなたのいちばん親しいと思
へる路を、たゆまずにお歩るきなさい。廿二日は是非どこか
へ散歩にゆきたいと思ひます。気に入ったものはかけません
が、本をよんだり、ぼんやりしてゆめをみてゐるだけでも
愉快です。いやな世間をみむきもせずに。
十九日 与志夫
[消印]14.3.19 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 ツトム 様
(日本近代文学館 蔵)
国立国会図書館 所蔵
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