品川 力 氏宛書簡 その三十三
富士アイスクリームパーラーを出ると直ぐ、野瀨は、
「力君はいい靑年だなあ」と感嘆しました。
それから――
われわれは、谷崎潤一郎の鮫人を買ひに、三省堂へ
いきました。さうして又、上野公園へ行きました。
十時です。上野のカフエー三橋は気が利いてゐて、それ
に若い美人が多いので、彼は―一杯のみたい―といふので、
その、キャラバンを演奏してゐる明るい卓子に休息しまし
た。僕、みかんと紅茶。彼は一杯といふ言葉に不拘、実
に三合をのんで、上機嫌です。十二時近くです。
―――――――――――
僕、寂しいなあ。星が出て、月夜で、しかし寂しいなあ
[消印]不明 (大正15年?)
[宛先]港区 神谷町 九
品川 力 君
[差出人欄]
1-25日
今日僕、主人カラオ金ヲ貰フ日デス。
然シ、ソンナコトハ、人間生活ノ眞実ニトツ
テ、ナンノ係リモナイ。人カラ愛サレルコト、人カ
ラ信ジラレルコトガ、楽シキ人生デス。ソレ故ニ、
アナタハ、最モ幸福デス。僕ハ不幸デス。
(日本近代文学館 蔵)
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