ツトムさん―昨夜は愉快でした。橙々いろの晩い月かげほのか
な夜ふけの路を、啄木のうたと、秋刀𩵋のうたとをふしづけ
てうたひ乍らかへってくるほど朗らかな気持でした。そして、
かへるとすぐ、卓燈をともして、「思ひ出の記」をよみはじめ、
あまりに面白いのでくりかへしくりかへしよみして、二時近くなりま
した。あなたは大杉氏とソックリです。あの作品からみると、ぼ
くなどは、ものをかく資格はないと思ひ、書きあげた原稿
を破棄したくなったほどです。私はあなたを激賞します。
どうぞ、あのつゞきを発表して、よませて下さい。
美しきゆめをみる―わたしは今、茫然たる気持を覚えて
ゐます。 与志夫
[消印]14.3.? (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 ツトム 様
(日本近代文学館 蔵)
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