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【攻略】忙殺されるPMに必要なプロダクト・オペレーションとは
プロダクト作りは、外から見ると華やかでも、地味な課題に向き合う日々が意外と多い仕事です。
今日こそ次の成長戦略を書かねば、と思いつつ、週次の数字の説明や、バグの火消しに追われる。
やっと戦略を考える時間が確保できたと思いきや、その情報源となるデータや顧客の声が入手可能な状態になっていない。これはつまり。。。自分で整備しろっていうこと?という状況はPMあるあるかと思います。
創業期はもちろん全部自分でやるしかありません。しかし、プロダクトラインが増え、数々のプロダクトチームがいる中で、各チームがこの課題にそれぞれ取り組むのは非効率です。どうすれば、各リーダー達が必要なデータや顧客の声をスムーズに入手でき、意思決定の質とスピードを上げることができるのでしょうか?
その答えが、Uber、OpenAI、Stripeなど名だたる企業で近年導入され始めた、「Product Operations(プロダクト・オペレーション)」という役割です。PMと経営幹部を「顧客」として捉え、彼らが意思決定に集中できるよう、必要となるデータ、顧客の声、及びプロセスを考え、シェアードサービスを整備する担当者又はチームです。
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この概念は、「ビルドトラップ」でも知られるハーバード大学講師Melissa Perriの新書「Product Operations」を通じて広まりました。在学中に私にPMのイロハを教えてくれた彼女の知恵を、私の経験も交えながら共有したいと思います。
プロダクト・オペレーションって?なぜ必要?
プロダクト・オペレーションとは、PMチームの戦略作り・優先順位付け・業務遂行に必要な情報を整備することで、PM機能の成長を支援する役割です。
PMの責任範囲は、非常に多岐に渡ります。顧客との会話、解決策のアイデア出し、データ分析、優先順位付け、社内各部署との折衝、ロードマップの管理、エンジニア・UXとの相談、開発の進捗管理、チームのプロセス作り、メンバーの研修。。。など、挙げると切りがありません。
そんな中、意思決定に必要なデータや、顧客の声、効果的なプロセスなどが整っていないと、長期視点での洞察や戦略を生み出すことが難しくなってしまいます。私も、「本当はこういうデータがほしい」「もっと顧客の声を理解しないと」と思いながら事業計画の期限に間に合わず、ありもので済ませてしまった経験があります。
そこで、少数精鋭の部隊でこの課題に取り組むことで、次のような効果が得られます。
戦略的な業務への集中:情報やプロセスを整備することで、PMが意思決定や優先順位付けにより多くのエネルギーを割くことができる
意思決定の質・スピードの向上:PMが重要なデータをタイムリーに得られることで、より迅速・的確な意思決定ができるようになる
プロダクトの品質の向上:良い意思決定を重ねることで、顧客が必要とするものがより高い確率で、より早く顧客の手に届くようになる
プロダクト・オペレーションの3本柱
良いプロダクト・オペレーションには、3つの構成要素があります。
顧客と市場の洞察
ビジネスデータの洞察
プロセスと手法
① 顧客と市場の洞察
良い戦略作りには、自社のプロダクトに対する顧客や市場の声の理解が不可欠です。この情報は、往々にして、SNS、サポートチャネル、営業担当者の頭の中、PMやデザイナーのGoogle Docなど、あらゆる場所に散在しています。これらの情報を一元化し、PM・幹部が常にそれを見られる状態にしておくことで、顧客が何を求めているのかを把握した上で次の戦略や対策を練ることができます。
1/ フィードバックリポジトリ(保管場所)の構築
まずは、サポートチケット、UXリサーチ、営業の顧客との会話など、様々な情報源からの顧客の声を集約することから始めます。これにより、全関係者が「フィードバックを見るならここ」という共通の掲示板ができます。以後もここに情報が集まるよう、最適なツールや保管場所につきコアな関係者と相談の上、運用について合意しましょう。
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私のチームでは、事業部のWikiに「Voice of Customer(顧客の声)」があり、そこに営業担当がSalesforceに打ち込む顧客の声のダッシュボード、録音された営業担当⇔顧客間の会話をキーワード検索できるツール(gong.io)、UXリサーチの一覧表、ベータプログラムの参加者・感想など、主要な情報源のリンクを集めていました。特にgong.ioは画期的で、PM自ら気になるテーマを検索して営業⇔顧客間の生の会話を聞くことができたので、営業の手間を増やさずに顧客の理解を深めることができました。
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より進化したチームでは、これらの情報をAIツールに流し込み、AIに聞けば顧客の声と示唆をまとめ、その出所も拾ってきてくれる、といった非常に便利なツールをガンガン活用しています。少し前に書いた「米国最新AIツール特集」にも例を載せているので、興味ある方はこちらをご覧ください。
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2/ ベータ・リサーチ情報の一元化
ベータやリサーチは顧客と深い会話を重ねることができる、貴重な情報源です。しかし、PMはどの顧客が参加意思があるのか分からず、顧客はどんなベータやリサーチに参加できるのか、分からないことが多くあります。この機会損失を防ぐには、営業各位を通じ、これらの参加意思がある顧客の一覧表と、実施予定のベータ・リサーチプロジェクトの一覧表を用意するのが効果的です。
参加してくれる顧客には優先的に最新機能の利用機会が来るので、思いの他顧客も快く引き受けてくれ、ここから早期にバグや改善機会を特定できたことが多々ありました。
3/ プロダクトと「現場」の会話の促進
情報を仕入れる仕組みができたら、一方的な情報流にならないよう、定期的に営業やカスタマーサクセスとの対話の場を設けましょう。PMがこれらの示唆をまとめ、どれは考慮し、どれは手をつけないのか、その根底にある考え方を共有することで、現場のメンバーとの信頼を醸成する必要があります。
② ビジネスデータと洞察
戦略策定とモニタリングを効果的に進めるには、上記の定性データに加え、社内の定量データも整備する必要があります。多くの企業ではこれを担うData ScienceやBusiness Intelligence (BI) 担当がいますが、彼らは通常、PMや幹部が何を知りたいのかあまり勘所がありません。
そこで、プロダクト・オペレーションが時間を割いて、必要な情報やその粒度を定義し、常時それを見られるよう分析を自動化・可視化することで、PMや幹部がデータに基づいた意思決定ができるようになります。
1/ プロダクト単位のデータ分析
一般的な結果指標に留まらず、顧客の採用率、利用率、NPS等のエンゲージメント(信頼・意欲)指標を揃え、その上でさらに結果指標に最も影響を与える利用データ(例:利用ステップ毎の放棄率)まで掘り下げていきます。これらを詳細に分析することで、どこに機会があるのかを把握し、ロードマップに反映できるようになります。
2/ 定型データのダッシュボード化
AIツールも進化しているとは言え、毎週見る分析を都度クエリ→分析するのも手間がかかります。頻繁に見るデータはダッシュボード化することで、より瞬時に状況を把握し、その示唆を活かすことができるようになります。
3/ データチームとの協力
Data ScienceやBIと日々働く中で、ダッシュボード化、新たな指標の追加、データパイプライン・実験インフラの整備など、より価値のあるデータをタイムリーに入手できるための仕組みを模索しましょう。ここに投資することで、PMや幹部がセルフサービスで分析できるようになり、意思決定の質が向上できるようになります。
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③ プロセスと手法
最後の柱は、これらの情報を基にどうチームとして意思決定やモニタリングを進めていくかのプロセス・手法です。Amazonではこれらを「メカニズム」と呼び、半年毎にそれらを見直し、追加すべきもの・廃止すべきものについて議論していました。
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常に心掛けたいのは、プロセス自体が目的にならないよう配慮することです。革新的な企業として知られていた会社が次第にイノベーションを起こす力を失った例は枚挙にいとまがありませんが、その原因の一つは「プロセスに支配された」であることが多いです。あくまで良い意思決定の再現性を高めるための手段として、次のような活動を進めていくことが大事です。
1/ プロセスやテンプレートの標準化
ロードマップ、GTMプラン、プロダクト開発資料(PRD)などの共通化されたテンプレートやフレームワークを決めます。これにより一貫性が担保され、時間の無駄を減らすことができます。例えば、Amazonでは新しいプロダクトを提案する際はPRFAQ(プレスリリース・よくある質問)という雛形を利用しています。
2/ コミュニケーション・会議体のリズム
ロードマップのレビュー、部門間の調整、経営陣との議論など、会社単位で足並みを揃えるためのコミュニケーション構造や会議体のリズムを確立します。
3/ ポートフォリオ管理と経営陣への可視性
加えて、プロダクト・オペレーションが経営陣にプロダクト毎の資源配分や、目標の進捗状況を可視化することで、経営陣がデータに基づいた意思決定をすることが可能となります。
おわりに
紹介した3つの柱は、全てを一遍にやらないといけないのではなく、自社に最も課題感がありそうなところから着手していくことをおススメします。担当者も1~2名など小規模で始め、効果が出てきたら、次にやることを決める、といった形で進めると、社内での成功事例を基にモメンタムが作りやすくなります。