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つば九郎はいつも「えみふる」! 私が愛したマスコットについて
突然の別れ
スワローズのキャンプ地である沖縄から東京に帰る飛行機の中で彼の訃報を知った。つば九郎を長年支えてきたスタッフの方が亡くなったのだ。こんな形で彼の記事を書くことになるとは思っていなかった。一プロ野球ファンとしての私の人生は、つば九郎と共にあった。唯一無二の存在だった。
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私はその週の日曜日から沖縄を訪れていて、スワローズのキャンプは18日と19日に見学した。つば九郎は長期療養とだけ聞かされていたから、まさかそこまで悪い状態だとはつゆとも知らなかった。キャンプ地でもあちらこちらでつば九郎のイラストやグッズを見た。マスコットキャラクターだからグッズがあるのは当たり前のことだが、本人が不在であることを感じさせない存在感はすごいな、と思った。もっとグッズを買っておけばよかった。
私とつば九郎
つば九郎が誕生したのは1994年。それは野村克也監督が指揮を執った1990年代のスワローズ黄金期と重なり、その時代は私の幼少期でもあった。両親がスワローズファンだった私は小学生の頃から神宮球場によく行っていた思い出がある。その頃から今に至るまで、私はずっとスワローズファンだ。
実家の冷蔵庫には今もつば九郎のマグネットが貼ってあった。正確に何年に作られたものかはわからないが、おそらく90年代だと思われる。ここに描かれているつば九郎は、実物よりもかなりスマートだ。
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最高のエンターテイナー
黄金期を過ぎたスワローズはとても人気球団とは言えず、球場への集客は厳しい時代が続いた。そんな中でもつば九郎は自分にしかできないやり方で、スタジアムに来る理由を提供した。スケッチブックに筆談というスタイルで、つば九郎は言葉を操る。
試合前、選手たちが出てくるのを待っている観客に向けてスケッチブックを広げ、時事に即した一言を披露する。そのときどきの時事ネタを笑いに変えるスタイルは、私が敬愛する爆笑問題にも通じる感性だ。私たちは彼のひらがなばかりのウィットに魅了された。彼は物言うマスコットの先駆けだったのではないだろうか。
プロ野球というのは特にインターバルの多いスポーツだ。選手たちがプレイする上で必要な時間だが、野球の試合時間の長さは問題になることが多い。しかしつば九郎はプレイ以外の時間の注目を一身に浴びることで観客を飽きさせない。
5回終了時にプレイで荒れたグラウンドを整備する時間がある。そこで行われるのがつば九郎の「空中くるりんぱチャレンジ」だ。着脱式の帽子を脱いで両手で持ち、それを体の前でくるくると回す。観客の手拍子が最高潮に達した時、回転のついた帽子を頭上高くに投げ上げると、両手を水平に広げて頭でキャッチする体制を取る。この瞬間ばかりは敵も味方も関係ない。観客は固唾を呑んで見守るのだ。そして落ちてくる帽子はいつも決まって被れない。球場はため息と笑い声に包まれる。
ついにこのパフォーマンスは一度も成功することはなかった。球場に来る誰もが知っていた。こんな芸当できるはずがないと。それでも球場はひとつになり、惜しかったら大当たり、全然ダメなら大笑い、みんながそれで満足していた。
夏は外野の人工芝にちょこんと座ってうちわを扇ぎながら神宮の夜空に上がる花火を眺め、チームが勝利すればヒーローインタビューを受ける選手の横でちょっかいを出す。記念写真にはいつも一緒に写っている。
つば九郎は私の人生で出会った中で最高のエンターテイナーの一人だ。
みんなで「えみふる」!
球場で、彼は常にデジタルカメラを持って歩いた。スワローズの選手だけでなく、他チームのベンチにも出向いては、選手たちと写真を撮った。そして自身のブログを毎日のように更新し、ひらがなばかりの文章でその交友録を語るのだ。
その文章は愛にあふれ、アップされた写真に写った選手たちはみんな笑っている。つば九郎が愛した言葉(造語)「えみふる」は「笑みFULL」、笑顔がいっぱいという意味だ。私はこの言葉が大好きだ。
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数年前にタワーレコードを訪れたとき、たまたま目に留まって衝動買いしたTシャツがある。黒字にマイクを持ったつば九郎が描かれたTシャツで「NO SWALLOWS, NO LIFE.」と書かれている。タワレコとスワローズのコラボTシャツだ。とてもいいフレーズで気に入っている。スワローズ無くして私の人生はない。でも今改めてこのTシャツを眺めると、どうしても別の言葉が込み上げてくる。
「NO つば九郎, NO LIFE.」
私の人生に、つば九郎は無くてはならない存在だ。
球団はつば九郎について、無期限活動休止としている。私は一ファンとして、つば九郎については球団の決定が全てだと思っている。球団のマスコットキャラクターである以上、このままいなくなることはあり得ない。そして私自身も暖かくなったら、つば九郎がまた球場にやってくると信じている。
だってツバメはいつだって、海を渡ってやってくるものだから。