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今日の1500字小説「秋風が吹く」
外の空気は、もうすっかり冷たくなってきた。この前“木枯らし一号”が吹いたというニュースを見た気がする。秋風がひんやりと顔のあたりを刺す。
こんな寒いのに会社行くのやだなぁ。
真夏にも同じことを言ってた気がする。在宅ワークOKのゆるいデザイン会社だけど、今日は珍しく対面のミーティングが予定されていた。散歩で歩くのは好きなのに、会社に向かうときだけ足が重いのはなんでだろう。
やっとの思いで会社にたどり着いた。早く来てる人があっためてくれてるから室内はぬくぬくしている。
「あーさぶさぶー」
暖気に触れて独り言が口をついた。
「人間って寒い時より、あったかいところに入ったときに寒いって言うよな。なんでなんだろう」
すぐ後ろにナカガワ課長が立っていた。
「わ、ちょっと驚かさないでくださいよ〜。おはようございます」
「おはよう。カシマ久しぶりか?ずっと在宅だったろ」
特に嫌味な言い方じゃない。この人はフラットに世間話をする人だ。
「1週間ぐらいこもってました。ホントは今日も出たくなかったんですけどー」
「自由人だな。その調子で頼むよ」
私の悪態にもツッコミなしでスルーするのがナカガワスタイルだ。
メールチェックと大事なミーティングを終えたらもうお昼。食堂と名のついた休憩室にコンビニで買ってきたものを持ってきて食べる。
「あー、カナデちゃん久しぶり〜!」
「あ、ユキさん、ミサさん、お久しぶりです〜」
コンシューマ…あれカスタマーマーケ…えーと販売企画室の先輩たちだ。部署が違うとお昼ぐらいしか顔を合わせない。この人たちとは前にチームで仕事をしたことがあった。
同じテーブルを囲んでお昼を食べる感じになった。二人は一緒にいるとずっとしゃべっている。
「ミサは最近彼氏とはどうなの?」
「ウチはちょっと秋風入ってるかなぁって感じ」
「秋風とか言う?古典みたいな言い方ね。 カナデちゃんわからないんじゃない?」
ユキさんからキラーパスが入る。え? 私?
「え? あー、最近 風つめたいですよねー」
「ほら、わかってない。古い表現でね、こう、男女の関係が冷えてくることを“秋風が吹く”っていうのよ」
そうなんだ。としか思えない。
「カナデちゃんは彼氏いるんだっけ?」
ミサさんからのご質問。この流れだとやっぱり来るよなぁ。
「や、いないです。全然。最近 友達とルームシェアしてるんです。それで今の生活がすごく楽しくって」
「あーそれもいいなぁ。ケンカとかしないの?」
よし、ユキさんが乗ってくれた。これなら話せる。
「もうぜんぜん! パートナーはすごく優しくて、甘えちゃってるんですけど、私が家事とかサボっちゃってても文句言わないでやってくれたりとか」
やだ私なんか早口になってる。
「なになに? パートナーって呼んでるの? へぇそういうカンケイなんだぁ」
え、ミサさんそこからかう? いいじゃんパートナーで。
「この前、向こうは“家族”って言ってくれました」
「キャー! もうアツアツじゃん。いや、うん、もうイマドキ全然おかしくないと思うよ」
「いや、そうゆうんじゃないですって。女同士仲良くやってるだけです」
「ちょっともうミサ、やめなって」
不穏な空気を察してか、ユキさんが制してくれた。
「あ、ごめんね、また聞かせて。ルームシェアのエピソード」
そう言うと二人は休憩室を出て行った。
帰り道、昼間のことを思い出していたら、ちょっと胸がチクチクした。あたしとナオの関係をそんな風に言ってもらいたくない。一緒に暮らす大事な家族。私だけに見せてくれるナオの笑った顔、寝ぼけた顔、お風呂上がりの濡れた髪…。
「あー熱い熱い」
ひんやりとした秋風がほてった顔を優しく冷やした。
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