今日の1200字小説「あなたとわたし」
貴方と私の関係は、切っても切れないものです。日毎貴方は私に食事を与えてくれます。貴方は私に心地よい部屋を与えてくれます。貴方は私の顔を見つめて、にこっと笑ってくれます。私は貴方の目を見つめ、ノドの奥を鳴らすことしかできません。それでも貴方は「君がいてくれてよかった」と言ってくれます。「君がいてくれるから、私は生きていられるのよ」と。貴方がいなければ生きられないのは私の方なのに。貴方は時折、ニオイのない箱をのぞいては、哀しい顔をして私の部屋から去ってゆくのです。夜毎私は独りになります。
あなたとわたしの関係は、断ち切ることができないほどもつれて絡み合ってしまった。わたしはあなたに会いに行っては、涙を拭きながら帰っていく。あなたの酷い仕打ちに何度遭ってもあなたから連絡が来れば足を向けるのを止められない。これ以上あなたとの関係を続けても、想いの激しさに身体を灼かれて、生きているのが苦しくなるだけだと分かっているのに。
貴女と私の関係は、もう修復することができないところに来ていると思うのです。私が他所に女を作ったから? 冗談を言ってはいけません。貴女がそう仕掛けたようなものじゃあないですか。そうやって私の帰りを待つだけが貴女の仕事ですか? そんなことならその、ほら貴女が飼い始めたそこの犬っころだってできることですよ。もうよろしいですか?私はもう行きますよ。今夜も遅くまで宴席があるのでね。
その夜、貴方は私の部屋に厭な臭いの男を招き入れました。この臭いは貴方が朝に帰ってきた時に、貴方に付いている臭いと同じです。私はこの臭いが厭でした。男が貴方に触るのを見て、私は厭な気持ちになって低く唸るような声を出しました。男は私に向かって手の甲を向け、私を退けるような仕草をしましたから、私の部屋に入ってきた余所者はお前だと、大きな声で吠えてやったのです。それを見た貴方は狼狽することなく、しっかと私の顔を見て、男を部屋から追い出してくれたのです。
「アンタが私にしたことを、私は絶対許さない!」あなたを部屋から出した後、外からそんな悲鳴が聞こえた。そのすぐ後に、あなたの叫び声が聞こえてきたけれど、わたしはしっかりと鍵を閉め、部屋の奥に駆け戻った。わたしは君を抱き寄せて「大丈夫だよ、怖くないよ」と言ったけど、君の方が身体を柔らかくして、私のことを包み込んでくれたね。やっぱり私は君なしでは生きていられないな。
アナタはアタシの先輩で、この部屋の主のように振る舞っているけれど、アタシはちゃあんと知っています。あの人の姿を追うアナタの目は尊敬に満ちていて、アタシが入り込めないくらい深い絆で結ばれているんだってこと。でもアタシだってあの人には大きな恩があるんだから。前のご主人様がいなくなって、捨てられそうだったアタシをあの人は拾ってここに住まわせてくれた。だからアタシもアナタと一緒になって、あの人を喜ばせてあげるんだから。