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旅立ち
さようなら愛 さようなら愛
わたしは眼を持った 別れの果てで
わたしは火種を奪った もみあう樹々から
わたしには二本の足が残った 考えの果てに
さようなら愛 さようなら愛
潮が引いてゆく 沖へ 沖へ 沖へ 冬へ
揺れていた小舟も動かなくなった 砂浜の砂の上で
はりつめたロープがきしむ音を 聞いたか 鴉 !
さようなら愛 さようなら愛
風のテーブルを叩いて激論した昨日なら
名刺を置いて帰ってきた 今日 <死>の玄関に
そうして明日からは売って歩くのだ この火 この眼 この黒耀石
さようなら愛 さようなら愛
形見の湿度計は 愛よ おまえにあずけて
わたしは旅立ってゆく 歌いながら そうだ歌いながら
さようなら わたしの笛 さようなら わたしのガウン
詩誌『駱駝』56号(1957年11月)
詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)
詩集『海がわたしをつつむ時』に収録するさいに、若干の改訂があります。
上記は詩集に収録されたものです。