早 春
春のめぐってくる意識から
椅子はだんだん傾いてくる
傾いた椅子には
おまえの幻影だけが腰をおろす
星の世界の吊人形のように
おまえのからだには重心がない
それでも傾いた青い椅子に
おまえはきちんと腰をかける
するとわたしの静脈では
ほのかに雪解がはじまってくる
初出不明
詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年5月*鳳鳴出版)
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上記詩集の冒頭に<初期詩篇>として収録されています。「椅子」にいたはずの形あるものが揺らいでいく。そして始まるのは「雪どけ」。いつの時代にもくり返されているのでは……。